書籍紹介


ビジネスパーソンのための近現代史の読み方
ケン・マネジメント代表 佐藤 けんいち 氏

第2回 トランプ大統領が誕生した裏には、どんな潮流があったのか

第2回 トランプ大統領が誕生した裏には、どんな潮流があったのか

「逆回し」で見えてくる「現在」の本質!

第1回 「現在」を知るために「歴史」をさかのぼる
第2回 トランプ大統領が誕生した裏には、どんな潮流があったのか
第3回 今の都市型ライフスタイルは、どんな風につくられてきたのか
第4回 都市型ライフスタイルを送る現代人特有の「2つの意識」
第5回 「歴史の三層構造」の視点を用いて歴史を見る必要性

ビジネスパーソンのための近現代史、2回目となる今回は前回に続き、私たちの記憶にも新しい「2016年の衝撃」のもう一方、トランプの大統領就任へ焦点を当てていこう。この1件も世界の歴史的潮目の変化を見るのに非常に重要であることがおわかりいただけるだろう。

まさかの大逆転勝利でトランプ米国大統領が誕生

米国の有権者は、不動産王のドナルド・トランプ氏を選んだ。アメリカ的なタテマエであるポリティカル・コレクトネスや、平気で嘘をつくワシントンの政治エリートやエスタブリッシュメントに、多くの有権者はそれほどウンザリしていたのだろう。大統領選におけるトランプ候補の主張のポイントは、エスタブリッシュメントから権力を「国民」に戻すこと、「外国を支援しすぎて貧しくなった」ので「アメリカ・ファースト」によって、米国を再び偉大な国にするという、誰にでもわかりやすいものであった。トランプ氏の米大統領戦勝利は「人民」による既存の「特権層」(=エスタブリッシュメント)に対する反乱という「革命」の側面と、「経済グローバリゼーション」に対する「経済ナショナリズム」の反撃という側面がある。この両側面は、英国の「EU離脱」だけでなく、イタリアの「五つ星運動」の躍進などにも共通して見られる、世界的な潮流と言えよう。潮目は変わったのである。

止まらない「格差問題」

この2つの潮流はどこから流れてきたのか見てみよう。

1981年のレーガン大統領就任以降、現在にいたるまでの約30年のあいだ、歴代の政権によって、政党に関係なく金持ち優遇策がとられてきたという指摘がなされることが多い。だが、『超・格差社会アメリカの真実』(小林由美、文春文庫、2009年)によれば、米国史においては、富が平準化した時代は「大恐慌」後1930年代から1970年代までの期間だけであり、あくまでも例外なのである。そして、この大繁栄期は、ルーズヴェルト政策のもとで「ニューディール政策」という「反資本主義」政策を遂行し、1940年代前半には第二次世界大戦に参入したことで、軍事関連物資の増産体制がケインズ政策的な有効需要創出と雇用の吸収を可能としたことによるものだった。そのため、1960年代に始まった「ベトナム戦争」の泥沼化で軍事費が増大し財政を圧迫、1970年代に入るとドル防衛のための「ニクソンショック」と、あいついで発生した「石油ショック」で世界経済の成長はピークアウトし、低成長時代がつづいており、ミドルクラスの崩壊がはじまったのである。

そんな中で登場したのがレーガン大統領であり、極限まで自由主義を撤廃した「新自由主義」の流れが現在まで続いていたのである。「新自由主義」のもとでは、どうしても行き過ぎが発生しがちである。企業経営に関していえば、1990年代以降、株主重視にシフトし、株主(シェアホールダー)以外の利害関係者(ステークホールダー)を軽視する傾向がでてきた。さらに所得税減税などの金持ち優遇政策によって、「持てる者」はさらに豊かになり、「持たざる者」は更に貧困化していく。この流れはまったく止まることなく、2011年には「オキュパイ・ウォールストリート」(ウォール街を占拠せよ)という抗議活動も発生している。そこでスローガンとして掲げていたのが "We are the 99%" というもので、1970年代以降、「上位1%の富裕層」が富を独占し、それ以外の「99%」は「持たざる者」となって苦境にあえいでいるという主張である。

米国と英国が進めてきたグローバリゼーション

フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッドは、英国の「EU離脱」の背景にあるのは、「グローバリゼーション・ファティーグ」であると指摘している。人びとは「グローバリゼーション」に疲れたのだ、と。世界経済を活性化し経済成長をつくりだしてきたという点に「グローバリゼーション」のポジティブな側面がある一方、恩恵を受けるのがもっぱら富裕層であり、「持てる者」と「持たざる者」の格差拡大が止まらないという「グローバリゼーション」の負の側面は臨界点に達し、ついにその旗振り役であった英米から反旗がひるがえったのだ。もっと国内に投資し、雇用を増やせという国民からの突き上げが「民意」として現れたと言うべきかもしれない。そもそも、経済分野で金融を中心に「グローバリゼーション」を推進したのは、英国と米国である。最初のその方向に舵を切ったのは、1979年に就任した英国のサッチャー首相であった。そして、その後1981年に就任した米国のレーガン大統領がその路線を全面的に支持する。「グローバリゼーション」が当たり前になってしまうと、それがあたかも自然現象のような錯覚を抱いてしまうが、「グローバリゼーション」は、あくまでも英国の「国益」であり、米国の「国益」が出発点にあったのである。

その「グローバリゼーション」が行き着くところまで行ってしまい、声なき大衆である「サイレント・マジョリティ」が声を上げ始めたことによって、もはや無視できないものとなったというのが「2016年の衝撃」となって現れたのである。

1979年に「グローバリゼーション」を始めた英国が、2016年には完了の旗振りをすることになった。英国につづいて「グローバリゼーション」を開始し、英国を後押しした米国が、2016年には英国をフォローする形で完了宣言する役を引き受けたことになる。かつての「覇権国」であった英国はいうまでもなく、20世紀の「覇権国」であった米国も衰退し、現在は「覇権国」の存在しない「多極化」の時代であるが、世界をリードするだけのチカラをもっているのは、依然としてこの二か国だけであることは否定できないのだ。

「ネーション」回帰の時代へ

「グローバリゼーション」の終わりが始まり、歴史はふたたび「ネーション」への回帰の時代となる。いや、「グローバル化」が地球のすみずみにまで及んだがために、かえって逆説的に「国家の論理」が再浮上してきたのである。作用に対する反作用というべきか、世の中は一直線には進まないものである。歴史をさらに「逆回し」にさかのぼれば、「1930年代」が想起されるのは、ある意味で当然だろう。1930年代とは、米国が震源となった1929年の「大恐慌」が世界全体に波及し、経済再建のため各国が「保護主義」に走り、自国の「国益」を守ることだけに集中して、自国の「生存圏」を確保するために血眼になった時代である。「第一次世界大戦」で疲弊しきった大英帝国は衰退過程にあり、それにとって代わろうと勢いのあった米国もまた国内事情のため、「アメリカ・ファースト」の観点から国際政治にコミットせずに「孤立主義」をとっていた時代である。英国も米国も、「覇権国」として世界全体の秩序維持に力を注ぐことはなかった。

「第二次世界大戦」の勃発までの20年間にわたり、米国が世界情勢に関与せず「孤立主義」を取った結果、ふたたび再生したドイツの暴走を招き、国際秩序が解体する。英国から「覇権国」の地位を奪い取った米国は、第二次世界大戦後には米国が主導する形で連合国を中心に「国際連合」をつくり、現在にいたっている。

歴史は繰り返すのか

現在の歴史が、「1930年代」にそのまま「逆戻り」するかといえば、そうとは言い切れないのではないだろうか。世の中の減少にはすべて「慣性の法則」が働くので、そう簡単に「グローバリゼーション」の動きがストップするわけではないし、すでに「グローバル化」してしまっている世界が、それ以前の世界に戻ることは想像以上に困難なことであろう。複雑にからみあってしまった現在の世界は、何か一つ不具合が発生しただけで、全体に影響が及んでしまう「システミック・リスク」にさらされている。「1930年代」のような動きをしようとしても、そう簡単に身動きができる状態にはない。保護貿易を実行して、一国だけで存在できるような世界では、すでになくなっているのが現実だ。「冷戦構造」が終わった後には、日系三世の米国人政治思想家フランシス・フクヤマの『歴史の終わり』(1989年)が話題になったが、その後の推移をみればわかるように、「進歩の時代」は終わったが、「違う形の歴史」がうごめき始めているというべきだろう。現在は、あらたな秩序が形成されるまでの混沌として「カオス状態」にあるというべきかもしれない。このカオス状態がいつまでつづくのかわからないのが辛いところだ。もしかすると、21世紀いっぱいかかるのかもしれない。

(次回へ続く)

ビジネスパーソンのための近現代史の読み方

「逆回し」で見えてくる「現在」の本質!
気鋭の経営コンサルタントが、単なる教養に終わらない、ビジネスパーソンにとって真に役立つ「世界史」を提示!

著者:佐藤 けんいち


この記事はあなたにとって役に立ちましたか?
ぜひ読んだ感想を教えてください。

投票結果をみる

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。

近現代史の読み方

関連記事