Hello, Coaching! 編集部がピックアップした本の概要を、連載形式でご紹介します。
ケン・マネジメント代表 佐藤 けんいち 氏
第3回 今の都市型ライフスタイルは、どんな風につくられてきたのか
2017年10月30日
「逆回し」で見えてくる「現在」の本質!
第1回 | 「現在」を知るために「歴史」をさかのぼる |
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第2回 | トランプ大統領が誕生した裏には、どんな潮流があったのか |
第3回 | 今の都市型ライフスタイルは、どんな風につくられてきたのか |
第4回 | 都市型ライフスタイルを送る現代人特有の「2つの意識」 |
第5回 | 「歴史の三層構造」の視点を用いて歴史を見る必要性 |
前回までは、時事的に記憶に新しい2つの歴史的事件を逆回しの視点から見てきたが、今回からはより一般化された、私たちになじみのある部分にスポットを当てたい。そう、「現在」を日常生活からとらえ、私たちの暮らす先進国のライフスタイルが一体どこから始まったのかについて見ていこう。
「現在」を日常生活から考えてみる
「現在」の先進国の都市型ライフスタイルはいつできあがったのか? この問いから始めるのは、「現在」から「逆回し」で歴史をさかのぼっていくために必要な前提となるからだ。取り組んでいる仕事は人によって千差万別だろうから、ここではおそらく最大公約数的に共通なビジネスパーソンの日常生活について振り返ることから始めてみたい。これが「逆回し」で歴史をさかのぼるための、もうひとつの思考の原点になる。
その中に生きている人にとっては、当たり前に過ぎて日常的に振り返って見ることなどないように感じるのが日常生活。しかし、この日常生活が、いつどこまでさかのぼることができるか、あえて考えてみると、意外なことに、たかだか200年程度の歴史しかないことがわかってくる。
日本人だけでなく先進国全般、あるいは発展途上国であっても、都市部に暮らす人に共通するのが「都市型ライフスタイル」である。平均的な日本人ビジネスパーソンの一日を想定してみよう。朝起きてベッドから出たらまずは顔を洗ってシャワー。蛇口をひねれば水が出る。お湯が出る。朝食はパンにコーヒー。昼は社員食堂か外食。夜は残業があればコンビニで軽食か弁当、残業がなければ帰宅して家で食べるか、飲み会か勉強会に参加するか。
家庭では家電製品が一通り揃っている。通勤や移動は電車か自動車。スーツに革靴、オフィスでは机に向かってイスに座り、コンピュータに向かって作業。家庭でもテーブルにイスの生活で、フローリングの床にカーペットとソファを置いてくつろぐ家庭もある。
こうした日常生活を支えているのが、鉄道、自動車、舗装道路、街路樹、電柱、街灯、そしてライフラインとしての上下水道・ガス・電気・通信といった社会インフラであり、エレベーター、エスカレーター、自動ドア、冷暖房と空調を備えたオフィスビルやマンションといった高層建築の中で人々は活動をしている。
まあ、ざっとこんなものだろうか。
「近代」の都市型ライフスタイルの源
では今日の私たちが当たり前のように享受している「近代」の「都市型ライフスタイル」発祥の地はどこだろうか。さかのぼって18世紀時点では百万都市の江戸、北京、ロンドンが都市機能、人口の観点から世界の三大都市だったとされている。それぞれが独自の「都市型ライフスタイル」をつくりあげて繁栄していた。だが「近代」の「都市型ライフスタイル」と考えると、ロンドンを挙げねばならない。
都市型ライフスタイルは19世紀英国のロンドンで誕生し、その後、「産業革命」のプロセスに入ったフランスやドイツ、イタリアといった西欧諸国に波及していく。同時期に「近代化」を開始した日本もまた同様であり、言うまでもなく米国もまたそうである。その結果、西欧諸国と日米を含めた先進国で共通のライフスタイルの基礎ができあがったわけだが、20世紀後半以降には米国型のライフスタイルが先進国全体だけでなく、世界全体に普及した。
「発展途上国」でも「中進国」でも首都は大都市化しており、都市型ライフスタイルが普及している。このようにさまざまなネットワークによってつながる都市型インフラを基盤とした都市型ライフスタイルは、全世界的に普及しているが、19世紀の英国とロンドンに起源があることを押さえておきたい。
「明治維新革命」政権は「産業革命」後の19世紀の最先端を導入
日本は19世紀の半ば以降から、西欧文明を本格的に導入することになる。本格的な導入が始まったのはいわゆる「開国」(1858年)以降のことである。明治政府が「近代化」方針を採用したとき、「近代化」イコール「西欧化」として世界的に見てもほとんど例がないほど徹底的な導入が開始された。日本は、西洋諸国の制度を徹底研究したうえで、主体的に選択し、19世紀当時の覇権国・英国からすべてを導入したわけではない。フランスやドイツ、オランダなどからもさまざまな制度を導入している。
その中で、ビジネス関連は当時の覇権国・英国と新興国・米国から。したがって、ビジネスに関しては「開国」後は英語が支配する世界であることに変わりはない。
18世紀後半から21世紀にかけての4次にわたる「産業革命」
ここまで、日本への西欧文明、「近代」の「都市型ライフスタイル」の導入を見てきたが、最後はイギリスにおける「都市型ライフスタイル」の発展を見てみよう。「現在」につながる生活革命の出発点は、英国発の「産業革命」にある。「産業革命」の成果が「経済成長」として顕在化したのは1820年以降のことだ。「産業革命」の以前と以降では、世界は根本的に変化してしまったのである。ただし、世界に先駆けて英国で始まった「産業革命」は短期間に集中して発生したものではなく、長期にわたってゆっくりと進行したプロセスであったことに注意したい。渦中にいた人たちは当然のことながら「革命」だという意識はもっていなかったようだ。根本的な変化というものは、あとになてから気づくものだ。それではそれぞれの「産業革命」を見ていこう。
第1次産業革命:産業革命
「第1次産業革命」とは英国で始まったいわゆる「産業革命」のことだ。石炭を動力とする蒸気機関の発明が、機械化と工業化を全面的に推進する原動力になったことはよく知られているとおりである。さらに蒸気機関車や蒸気船といった交通革命を生み、ライフスタイルを革命的に変化させていった。
第2次産業革命:エネルギー革命
「第2次産業革命」は電力を動力源としたエネルギー革命であり、規格化と互換部品によって大量生産システムを確立した米国がリードする。これによって一般消費財の大量生産が可能になり、モノがあふれる豊かな社会の基盤ができあがった。現在につながる大量生産・大量消費・大量廃棄社会は米国からはじまったのである。
第3次産業革命:コンピュータによる自動生産化
「第3次産業革命」は、コンピュータによる自動生産化で日本が製造業をリードした時代。1980年代には、積極的に産業用ロボットを生産現場に導入し、同時に労働者の現場レベルでの自主的な生産性工場を促すやり方で、世界のモノづくりをリードする製造業大国にのしあがった。そしてこの時代はアナログからデジタルへの移行期でもあり、パーソナル・コンピュータとマイクロソフトのウィンドウズの関係に端的に表れているように、ソフトウェアの優位性がハードウェアを上回り始めた時代でもある。
第4次産業革命:すべてがインターネットで接続したIoT
「第4次産業革命」とは、すべてがインターネットで接続したIoTのことだ。21世紀に入ってから、デジタルの時代に完全に移行しはじめた。製造業の未来に危機感を抱いていたドイツが主導し、製造業復活を試みる米国もまた独自に取り組みを開始している。
これらの「革命」を通して「現在」の都市型ライフスタイルが築きあげられてきたことがご理解いただけるだろうか。しかし、その一方では、温暖化などの地球環境問題の根源も「産業革命」にあることは知っておかねばならない。石炭という化石燃料から排出されるCO2が問題を引き起こしていることは、1960年台の「高度経済成長期」にいちはやく公害問題で苦しんだ経験をもつ日本人は、とくに銘記しておくべきことであろう。ここまで、「見えるもの」としての「物質文明」から日常生活について考えてみた。次回は「みえないもの」の視点から「近代」がもたらした変化を考えていきたい。
(次回へ続く)
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