Hello, Coaching! 編集部がピックアップした本の概要を、連載形式でご紹介します。
ケン・マネジメント代表 佐藤 けんいち 氏
第5回 「歴史の三層構造」の視点を用いて歴史を見る必要性
2017年11月13日
「逆回し」で見えてくる「現在」の本質!
第1回 | 「現在」を知るために「歴史」をさかのぼる |
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第2回 | トランプ大統領が誕生した裏には、どんな潮流があったのか |
第3回 | 今の都市型ライフスタイルは、どんな風につくられてきたのか |
第4回 | 都市型ライフスタイルを送る現代人特有の「2つの意識」 |
第5回 | 「歴史の三層構造」の視点を用いて歴史を見る必要性 |
現代社会において、都市部に住む世界中の人々はほぼ同様の都市型ライフスタイルを送っている。こういった生活を可能にした近代化を大きく推し進めてきたのが科学技術の発展による、汽車、車、そして電車などの移動技術、そして、移動速度の向上によって「空間差」を「時間差」に変換し、その差異を縮小してきた運動が、「資本主義」とそのメインフレームである「グローバリゼーション」であることは前回お話しした。これらの運動はすべて現在へ至る最終段階であるネットワークの発展へとつながっている。それはすなわちすべてのものが場所性を超越してリアルタイムにつながる「一体化」の世界に向けて進んでいるといえる。詳しくお話していこう。
すでに世界はネットワークによってほぼ完全に「一体化」している
経済主導の運動としての「グローバリゼーション」が終わったとしても、世界はすでに「グローバル化」され、「一体化」されているといえる。通信ネットワークでリアルタイムにつながらる世界、サプライチェーンで複雑につながる企業、さらに「IoT化」で機器レベルですべてがつながる方向へと進んでいる。
通信ネットワークや交通ネットワークによってつながり一体化した世界。ネットワークを動くのは情報だけではない。ヒト・モノ・カネすべてである。過去の研究成果は知識化され蓄積され一元的に管理され、検索されることになる。科学上の発見も、あらたな発見によって否定されない限り、人類の知的財産として蓄積されている。「グローバル化」がほぼ完了した現在においても、「国家」は依然として存在し、「国境」は消滅する気配すらない。それでも、すでに「グローバル化」している現実は変えようもない。これが21世紀最初の四半世紀にある「現在」の状況だ。そして、この状況は19世紀以降のたかだか200年くらいの変化がもたらしたものである。
「現在」とは英米アングロサクソンが主導する世界
これまでも述べてきたことだが、「現在」の都市型ライフスタイルを主導して作り出したのは19世紀の英国と20世紀の米国である。それぞれの国が時代の流れの中で「覇権国」となった結果、そのライフスタイルが資本主義圏を中心にして全世界に拡散した。英国と米国はともにアングロサクソンと呼ばれる存在だ。19世紀から20世紀にかけての200年で、英国とアングロサクソン的思考法が世界のスタンダードになったのはその意味で当然というべきなのである。明治時代以降の日本で、国際ビジネスにおいて英語が必須とされてきただけでなく、学校教育では一貫して英語が重視されてきたのもそのためだ。
英米が主導してきた「世界の一体化」は「世界の均一化」をもたらし、それぞれの地域の経済や文化を破壊しているというグローバリズム批判がある。とくに経済格差問題とからめて異文化をもちこんでくる移民の増大に対する反発によって「2016年の衝撃」が起こった(第1回、第2回参照)。だが、そうした「反グローバリゼーション」の動きでさえ英米がリードしているというのが世界の現状なのである。この意味をしっかりと見つめる必要がある。
20世紀最高の歴史家ブローデルによる「歴史の三層構造」
最後に、歴史学者ブローデルの「歴史の三層構造」についてご紹介したい。ブローデルは、『物質文明・経済・資本主義』や『フェリペ2世時代の地中海と地中海世界』といった大著を残しているが、「歴史的時間」は「長期波動・中期波動・短期波動」の「三層構造」で構成されており、それぞれが重層的に重なりあっていると把握すべきことを提唱している。
「短期波動」とは、「速いテンポ」で過ぎ去っていく「ちり」のような事件や出来事を指している。そのときには大きなインパクトをもっていたとしても、あっという間に忘れ去られてしまう性格をもつ。
「中期波動」とは、「より緩やかなテンポ」で動いていく社会の動きをさしている。「日常生活」はよほどのことがない限り、昨日と明日の違いは大きくない。あるいは昨年と来年の違いもあまりない。日常生活を支えている人口動態や国家の枠組みなど、もろもろの要素もまた、そう極端に変化するものではない。戦争もまた、一瞬のうちに過ぎ去るものではないので、このなかに含まれる。
「長期波動」とは、「ほとんど動かないテンポ」の変化である。自然環境や気候などである。歴史よりも地理条件、さらにいえば地質学的な要素などは、きわめて長い時間をかけて変化していくものだ。ブローデルは「長期持続」という表現をつかっている。歴史的時間の「深層」を流れているものだ。
この「三層構造」は、経済誌の分野で議論されてきた「景気循環」にも似ている。約40ヶ月の比較的短い循環を「キチンの波」、約10年の循環を「ジュグラーの波」、約50年の循環を「コンドラチェフの波」と、いずれもその説を提唱した経済学者の名前をつけて呼ばれている。このように「短期・中期・長期」の「三層構造」で時間を把握することは、問題解決にあたるビジネスパーソンのマインドセットにも合致している思考法である。ただし、ビジネスの世界では「長期」といってもせいぜい5年から10年程度であり、「中期」とは3年から5年程度のことをさしている。
「歴史の三層構造」の視点を用いて歴史を見る
歴史学者のブローデル流にいえば、英国の「EU離脱」という「ブレクジット」も、米国でトランプ大統領が誕生したことも、「短期波動」の事件であり出来事であるが、「中期波動」としても今後に大きな影響を与えていくものだと考えられる。200年間にわたって確立していった「都市型ライフスタイル」は、上記のような事件と比較すれば「緩やかな変化」といえるだろう。ブローデル流にいえば「中期波動」であり「長期波動」に該当するものといっていいかもしれない。ブローデルは「人間は腰の上まで日常性の中に浸かっている」という表現を使っている。
「短期」であれ「中期」であれ、「現在」に生きるビジネスパーソンは、英米アングロサクソンがつくりだしてきた歴史と密接な関係にある。ビジネスの範囲が日本国内に限定されようと、中国や東南アジアであろうと、英米アングロサクソンが作り出してきた日常に私たちは浸かって生きているのだ。
(了)
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