書籍紹介

Hello, Coaching! 編集部がピックアップした本の概要を、連載形式でご紹介します。


アメリカンドリームの終わり あるいは富と権力を集中させる10の原理
ノーム・チョムスキー

第3回 (原理3)経済の仕組みをつくり変える

第3回 (原理3)経済の仕組みをつくり変える
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※本稿は、ノーム・チョムスキー著『アメリカンドリームの終わり あるいは、富と権力を集中させる10の原理』の第1章から第5章までを抜粋編集したものです。

ノーム・チョムスキーの新刊、「アメリカンドリームの終わり」の内容を紹介する連載第3回。今回は、経済システムがどうやって「上流階級」にとって都合のよいかたちにつくりかえられてきたのか、その歴史を見ていきます。前回までに述べてきたように、一般民衆が団結し声を発することを恐れた政治家や資本家は、システムの側面からそれを束縛する試みを繰り返しました。その一つの大きな柱が、お金という彼らのアドバンテージを大きく活かした経済システムの構築でした。

原理1 民主主義を減らす
原理2 若者を教化・洗脳する
原理3 経済の仕組みをつくり変える
原理4 負担は民衆に負わせる
原理5 連帯と団結への攻撃

原理3 経済の仕組みをつくり変える

1970年代から一貫して、「人類の支配者」、つまり社会を所有していると思っている人たちの側で、猛烈な努力が続けられてきました。その一つは、経済における金融機関の役割を増大させようとするものです。たとえば、銀行、投資機関、保険会社その他の役割を強めようという試みです。2007年、すなわち、最近の金融危機の直前のことですが、そのとき、それら金融機関の利益は、全企業利益の40%を占めるまでになっていました。それは過去のどの期間においてもなかった占有率でした。

1950年代のアメリカにおいて、経済の基盤を担うのは製造業でした。合衆国は世界で有数の製造業の中心地だったのです。金融機関は、経済の比較的小さな部分を占めていただけで、その役割は銀行預金のような、まだ使われていない資産を生産活動に振り向けることでした。それは経済に対する一つの貢献のあり方でした。銀行を規制する制度も確立しており、銀行は勝手にふるまうことを許されてはいませんでした。つまり、商業銀行と投資銀行は分離されていて、危険な投資をすることは大きく規制されていました。そのような投機は一般市民を傷つけるからです。そして実際、ニューディール政策がおこなわれている間は、たったひとつの金融危機すらありませんでした。

また、世界各国の通貨は、金本位制に基礎を置くドルに連動するように規制されていたので、通貨を投機の対象にすることもほとんどありませんでした。しかし、70年代になると、状況は一変しました。通貨に対する規制・統制は取り払われ、それによって通貨に対する投機は急増しました。それは以前から予想されていたことでもありました。

経済の金融化

金融規制が取り払われるのと同時に、製造業の利益率は大きく落ち込みました。いまでもかなりの利益を得ているとはいえ、その利益率は下がる一方です。だから、巨大な投機的な資本の流れが急上昇しはじめたのも当然のことでした。この金融部門における巨大な変化は、従来の伝統的な銀行から、危険で冒険的な投資銀行への変化でした。かれらは複雑極まりない金融商品を開発したり、果ては金融操作すら行うようになっていきます。こうしていまや国家経済の基盤は、製造業ではなくなっています。少なくともこのアメリカではそうです。それは、経営者の選択にすら、見て取ることができます。

経営者が今の大企業で成功するために最も重要なことは、次の四半期でよい結果を見せることだけです。四半期=3ヶ月というのは非常に短い期間ですから、これは長期にわたる企業の未来を考えた行為ではありません。彼らが念頭に置いているのは、次の四半期でどういう結果を手に入れることができるかだけです。それは同時に、彼らの給料やボーナスその他を決定するからです。企業の在り方は短期利益を上げることを目的として立案され、そしてそのことで、自分に大量のお金が入ってくれば、それでいいのです。

仮に金融危機で会社が破産しても、かれらは、予め契約されていた巨額の退職金を手にして会社を辞めればいいだけです。ゴールデンパラシュートと呼ばれる落下傘を使って、次の就職口に着地できるのですから。このようなことが企業の在り方をも根本的に変えてしまいました。

金融規制が解除されたことによってアメリカで起きたこととは、要するに、経済における金融機関の役割が急上昇した、ということです。それと並行して、アメリカにおける国内の生産量も利益率も急激に低下しました。これが経済の金融化とよばれるもののひとつの現象です。

労働者を不安定な地位に追い込むこと

金融システムの改変をはじめ、製造業の海外移転などを通した支配階級の経済政策は、労働者の地位をより不安定なものにしていくことに向けられています。労働者の身分を不安定な状態にしておけば、管理統制しやすいからです。不安定な状態に追いやられてしまえば、労働者は適正な賃金を要求したり、適正な労働条件を要求したり、あるいは労働組合をつくる自由を求めることはなくなります。そうして、いま仕事があるだけで喜びを感じ、たとえ汚い仕事をしなければならなくなったとしても気にかけもしなくなるのです。そして、一部の経済学者は、これこそが健全な経済だと考えているのです。

したがって、アメリカの民衆が経済の停滞のなかで、過去30年間維持してきた生活水準をそのまま保ちたいのであれば、まず第一にしなければならないのは、自分の労働時間を増やすことだけです。アメリカの労働者の労働時間は、ヨーロッパと比べれば、かけ離れたひどさです。しかも手にする福祉は減らされる一方です。だから人々はなんとか借金でやりくりしているのです。さらに、いまや生きていくためには、夫婦共稼ぎが当たり前になってきていますが、その結果、家庭は崩壊しつつあります。アメリカにはヨーロッパや日本に見られるような子育てを支援するための公的援助が何もないからです。もし現在の社会的経済的傾向がこのまま続けば、私たちの孫世代の大多数の民衆には、専門的な就職口を見つけられる人を除いて、基本的にはマクドナルドで働くようなサービス業の仕事しか残されていません。しかし、「人類の支配者」にとっては、それも悪くはないのです。なぜならそれは、彼らの利益をつくりだすからです。

金融化や企業、製造業の海外移転はアメリカ社会を悪循環へと誘い込む過程でした。それは、富と権力を一部の集団に集中させるという悪循環です。先にも述べましたが、製造業者は引き続き大儲けをしていますが、それは国内ではなく、国外においてなのです。アメリカの大企業は、その利益の大半を海外から得てきています。しかもそれは、他方で、あらゆる種類の「負の機会」をつくりだすことに貢献しています。かれらはその機会を利用して、アメリカ社会を維持するための負担を、残りの国民の肩に背負わせようとしているのです。

(次回へ続く)

アメリカンドリームの終わり あるいは、富と権力を集中させる10の原理

著者: ノーム・チョムスキー
出版社: ディスカヴァー・トゥエンティワン


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