書籍紹介

Hello, Coaching! 編集部がピックアップした本の概要を、連載形式でご紹介します。


アメリカンドリームの終わり あるいは富と権力を集中させる10の原理
ノーム・チョムスキー

第4回 (原理4)負担は民衆に負わせる

第4回 (原理4)負担は民衆に負わせる
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※本稿は、ノーム・チョムスキー著『アメリカンドリームの終わり あるいは、富と権力を集中させる10の原理』の第1章から第5章までを抜粋編集したものです。

ノーム・チョムスキーの新刊、「アメリカンドリームの終わり」の内容を紹介する連載第4回です。前回の記事の中で、富裕階層と一般市民の間で起こった戦いにおいて、富裕階層はそのふんだんな資金や権力を使って、一般市民をより不安定な生活に追いやることで、その力を維持し続けてきた歴史をお見せしました。この流れはアメリカが製造業を経て金融経済を強化していく中で、さらに強化されていきます。今回は金融経済とそれに伴うグローバリゼーションの中で起きつつある、社会の分裂をより詳しくのぞいてみましょう。

原理1 民主主義を減らす
原理2 若者を教化・洗脳する
原理3 経済の仕組みをつくり変える
原理4 負担は民衆に負わせる
原理5 連帯と団結への攻撃

原理4 負担は民衆に負わせる

いわゆるアメリカンドリームというものは、たぶんに象徴的なものでありながらも、かなりの真実も含まれていました。たとえば1950年代、60年代は、アメリカ経済が最も成長した「黄金時代」でした。それは貧富の格差の少ない経済成長で、人口の下位5分の1の生活の水準は上位5分の1と同じ程度によくなりました。

当時のアメリカ産業は製造業中心でした。だから生産物の買い手をアメリカで見つけなければなりませんでした。だからこそ、自動車会社フォードの社長ヘンリー・フォードは、自分の雇っている労働者の給料を2倍に引き上げて、社員にも自分たちが製造した車を買うことができるようにしたのです。

プルトノミー(金持ち経済圏)

最近、アメリカ最大級の銀行のひとつであるシティグループが、自分たちの研究を一冊の本にして出版しました。それは投資家たちのための研究で、そのなかで新しい用語を提起しています。それがいわゆるプルトノミー(金持ち経済圏)という用語です。それは、豊かな富をもつ人たちだけを相手にする経済です。アメリカの富のほとんどすべては、彼らのところに流れ込んでいるのだから、彼らこそが経済の主要な牽引者だというわけです。シティグループは1980年代の半ばから、「プルトノミー投資目録」というものをつくりはじめました。それはちょうど、レーガン大統領やサッチャー首相が超富裕層をさらに豊かにし、その他すべての人を貧困に追い込む政策を強力に推し進めた時期と時を同じくしています。

シティグループは研究報告のなかで、自分たちの投資目録が市場で最高の利益を上げてきたことを指摘し、投資家たちに、だからプルトノミーに投資を集中させるべきだ、と呼びかけています。つまり、世界人口のほんの一部の人に富が集中しつつあるのだから、そこにこそ投資の焦点を当てろ、というわけです。残りのすべての人たちについては、忘れてもらって結構、というのがかれらの主張でした。

投資家たちが国際的なプルトノミーへと移りつつあるのだから、アメリカの消費者の生活がどうなろうと、シティグループの人たちはほとんど関心をもちません。民衆の大半は大企業が製造するものを買ったり消費したりする余裕はまずないのですから、そんな民衆の動向は、投資を考える際の材料にはならないわけです。

経営者や投資家たちの目標は、次の四半期の利益を上げることです。たとえそれが、物の製造ではなく金融操作に基づくものだったとしてもかまいません。かれらの目標は高い給料、高いボーナスを得ることなのですから。そして必要ならば海外でも製造します。販売対象は、この地アメリカの富裕層と同じく、海外の富裕層です。海外といっても、いわゆる英米圏、すなわち合州国、イギリス、カナダなどの国ですが、市場はほかの地域に広がっていく可能性もあります。アイフォンなどの携帯電話は、英米圏だけではなく他の地域でも売れますから。かくして、アメリカ社会の健全度に対する経営者や投資家の関心は低下する一方です。

このような傾向は、1970年代の後半に起きた大きな経済的変化からはじまったものです。この経済的変化というのは、先の章でお話ししたように、まず第一に、経済の金融化でした。すなわち、投機、複雑極まりない金融商品の創出、怪しげな金融操作です。そして第二に、企業の海外移転です。経営者の観点からいうと、「国家の長期的な未来」などということは、もはや重要なことではありません。かれらにとって重要なのは、社会の一部の階層だけ。このように述べると、経営者には国家に対する関心がないように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。経営者にも強力な国家は必要です。なにしろ国家は、研究開発の補助金を出してくれるだけではなく、経営がうまくいかなかったり破産したりしたときには救いの手を差し伸べてくれる存在なのですから。さらに、国家には、世界の市場を支配するための強力な軍隊をもってもらわねばなりませんから。

けれども、その4分の3が貧困に陥っている国民に対する関心は、低下する一方です。まして、次の世代に何が起きるか、どうなるかなど、なおさら眼中にありません。こうして、いまやプルトノミーはますます勢いを増しつつあります。アダム・スミスの言う悪しき格言「すべては自分のため、他人のことは忘れろ」に従っているのです。

プリケアリアート

では、かれらの眼中からきえてしまった多くの民衆についてはどうでしょうか。これについては、シティグループの研究所では面白い言い回しを使っています。そこでは、その貧しい大多数の民衆を「プリケアリアート=プリケアリアス(超貧困な)+プロレタリアート(労働者階級)」と名付けています。つまり、ますます不安定な生活に追い込まれている世界中の労働者のことです。いまや世界にはそのような生活貧困者があふれています。毎日毎日の生活が不安定で、なんとかやりくりしていても、その多くが超貧困のなかに追い込まれ、さまざまな点で生活難に襲われています。そこで出てくるのが、シティグループの例の忠告です。すなわち、投資家たちはプルトノミーだけに焦点を合わせなさい、というわけです。

これは実に深刻な問題です。わたしたちの世界はいまや崖っぷちに向かって進んでいるというのに、「世界の支配者」にとってはたいした問題ではない。より多くの利益を得ることができる限り、孫の世代がどのような世界に住むことになろうともかまうものか」これがかれらの国家に対する姿勢を決めている考え方です。

このような社会の分裂は、いまや世界共通の現象です。世界の一部の地域を除けば、世界のほとんどの地域において、シティグループの指摘は正しい。一方の極に、超豊かな富裕層が存在し、残りの貧しい民衆は、何とかやりくりしながら生き延びるだけの毎日です。

(次回へ続く)

アメリカンドリームの終わり あるいは、富と権力を集中させる10の原理

著者: ノーム・チョムスキー
出版社: ディスカヴァー・トゥエンティワン


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