Hello, Coaching! 編集部がピックアップした本の概要を、連載形式でご紹介します。
目に見えない道具で「医師の働き方改革」は進化する
第1回 なぜ医療機関の組織改革にコーチングが有用なのか 上
2021年03月15日
2021年3月19日に、ディスカヴァーより『コーチングで病院が変わった』が刊行されました。著者は、コーチ・エィでコーチングを学ばれたBasical Health産業医事務所の佐藤文彦氏。佐藤氏は、大学の分院での診療科長時代に、このコーチングスキルを活用し医局員全員の残業をゼロにする改革を進めてこられたました。糖尿病専門医として複数の保険組合と健康増進事業を進めていったり、嘱託産業医として数多くの企業の業務改善にも取り組んでおられます。2024年4月までに全国の医療機関が「医師の働き方改革」を実現させなければいけない状況の中、佐藤氏はコーチングがそのための有益な「道具」になり得ると考え、この本を執筆されました。本書には、佐藤氏からコーチ・エィの鈴木へのインタビューも収録されているほか、組織としてコーチングを導入された病院の事例も多数紹介されています。
今回、Hello, Coaching! では、鈴木へのインタビューを軸に、病院へのコーチング導入事例を抜粋してご紹介します。
第1回 | なぜ医療機関の組織改革にコーチングが有用なのか 上 |
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第2回 | なぜ医療機関の組織改革にコーチングが有用なのか 下 |
第3回 | 赤字続きの公的病院が一転 ~ 組織改革の全貌(新小山市民病院) 上 |
第4回 | 赤字続きの公的病院が一転 ~ 組織改革の全貌(新小山市民病院) 下 |
第5回 | プロ同士のコミュニケーションを円滑にするためのコミュニケーション(九州がんセンター)上 |
第6回 | プロ同士のコミュニケーションを円滑にするためのコミュニケーション(九州がんセンター)下 |
「経営者が陥りがちな落とし穴」とは
株式会社コーチ・エィ 鈴木義幸インタビュー
(聞き手:Basical Health産業医事務所 代表 佐藤文彦氏)
佐藤氏 一般企業において活用され続けてきたコーチングの取り組みが、徐々に医療現場においても広がり始めています。率直にこうした状況をどのように感じていますか。
鈴木 まず思ったのは、病院組織においても、一般企業と同じようなことが起こっているのだということです。例えば企業の経営者が陥りがちな課題として、「組織を機械として見てしまう」というものがあります。つまり、社内の各部門を機械のパーツとして見立て、そこで働く人を部品としてとらえてしまう。
「モーターの回転率を上げればもっと全体がよくなるはずだ」「この部門のパフォーマンスが悪いのは人材のスペックが悪いからだ」「ダメなら他の人に変えてしまえないか」というように、組織を機械論的に見るがあまり、大切なことを見失ってしまうということがよくあるのです。
医療現場の方々のお話を伺うと、病院組織においても、これに似たような事象が起こってしまっているのではと感じることはしばしばあります。医療機関の場合「人を、命を救う」という目的意識が明確である分、院長先生や医師の方々が、「患者さんの治療に役立っているかどうか」という、ある意味、機能的な側面から、知らず知らずの間に機械論的にスタッフを見てしまう可能性があるのではないでしょうか。
実際にはスタッフ一人ひとり、それぞれ違う人間で、モチベーションの高め方も異なります。
特に組織が大きくなるほど、その事実が忘れられスタッフの持つ「人としての側面」をクローズアップして見ようとしなくなることがあるのではないかと感じます。コーチングを学び、実践することによって、院内のスタッフを「資格や技能を持ったパーツ」ではなく、「一人の人間」として意識していくことが、有効な一つの手立てなのかなと考えています。
「組織を変えるコーチング」2つのポイント
佐藤氏 コーチングを通じた組織変革の特徴は、どんなところにあるのでしょうか。
鈴木 われわれが講座等を通じてご紹介しているシステミック・コーチング™には、大きく2つのポイントがあります。
1つ目のポイントは、「人は様々な人との関わりの中に存在している」ということを大前提として、「一つの生命体として組織を扱う」ということです。
例えば看護師の方々が患者さんにいい医療を提供するためには、看護師の方と患者さんとの関わりだけではなく、上司や医師、事務スタッフといった同僚との関わりにも目を向け、病院全体を一つの組織としてもう一度あらためて見直し、その中での関わりや一人ひとりの状態を見ていくわけです。
スタッフ一人ひとりには主観があり、その人ならではのモチベーションがあり、一人の人間として悩むこともあれば、調子が出ないこともある。そうした前提に立った上で、業務に前向きに取り組める生態系をつくっていけるような施策を打っていくことがポイントとなります。
2つ目のポイントが、スタッフ一人ひとりに「内部参加者としての視点を持ってもらうことを重要視している」ということです。
「この病院のここがいけない」「経営層はこういうことが分かっていない」などと批判ばかりするのではなく、組織の一員(内部参加者)として自分に何ができるのかを主体的に考える。そうした姿勢を持ったスタッフを増やしていくことで組織を活性化させていこうというアプローチです。
このように「関係性の中で自分が生きている」ということが理解できれば、「自分だけではなく、周囲の人たちが主体性を発揮できるように働きかけよう」と、協調性を持って動いてくれるスタッフが増えてくれるはずですし、「批判ばかりするのではなく、チームメンバーとして自分にできることを考えよう」と動いてくれるスタッフがいれば、組織の様々な問題が解決に向かっていくと考えます。
もちろん、このような組織文化を構築するのはそう簡単ではありませんが、まずは経営層の方々にこれらの重要性を理解していただき、コーチングを受けてもらったり学んでいただいたりした上で、各部門のリーダーなど、院内の主要なキーパーソンを巻き込みながらコーチングを広げていってもらう。そのように段階的に取り組んでいかれるのがよいのではないかと思います。
※ システミック・コーチング™は株式会社コーチ・エィの登録商標です。
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