Hello, Coaching! 編集部がピックアップした本の概要を、連載形式でご紹介します。
第2回 迷信その2:質問なくしてブレークスルーや気づきは生まれない
2023年08月24日
2023年6月23日に、世界トップコーチ30の一人にして、組織心理学博士でもあるマーシャ・レイノルズ博士の『Coach the Person, Not the Problem』の日本語版、『変革的コーチングー 5つの基本手法と3つの脳内習慣』がディスカヴァー・トゥエンティワンより刊行され、その監修をコーチ・エィのファウンダーである伊藤守が務めました。
著者のレイノルズ博士が懸念するのは、コーチングを学び実践する人々が抱きがちな"誤解"。それらを解き、コーチングの真価を伝えるべく、より高い効果をもたらす〈内省的探求〉のコーチングを行うための5つの基本手法と3つの脳内習慣を解説したのが本書です。
第1回 | 迷信その1:コーチングに熟練するには長い時間がかかる |
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第2回 | 迷信その2:質問なくしてブレークスルーや気づきは生まれない |
第3回 | 迷信その3:コーチは「閉じた質問」ではなく「開かれた質問」をすべきだ |
第4回 | 迷信その4:内省を促す言葉は、挑発的だ |
第5回 | 迷信その5:明確なゴールまたは将来像を必ず設定すべきだ |
世の中にはコーチングに対する根拠のない批判や決めつけ、思い込みが広まっている
コーチングの価値を損なう迷信は、少なくとも5つあります。それらは正しいときもありますが、原理原則のように扱うとコーチングの効果をかえって薄めます。
それぞれの迷信について説明しながら、代わりにどう考えればクライアントと良い関係を築けるかを述べたいと思います。
第2回 迷信その2:質問なくしてブレークスルーや気づきは生まれない
迷信の出どころ
内省を促す言葉について教える学校は多いですが、人気の面ではやはり質問に負けます。 コーチングとは相手に自由回答を求める質問をし続けることだと教える学校もありますし、 リーダーやコーチのための名質問をそろえて人気の本もあります。コーチのデモンストレーションでは、見学者はしばしば何が一番良い質問だったかに注目します。内省を促す言葉に導かれて自省をするくだりを思い出す人はほとんどいません。インパクトの強い質問が称賛を浴びるのです。
迷信の中の真実
良い質問は相手の心の均衡を崩し、その人の思考や信条が正当なのか不合理なのか、考えさせます。相手は、問題について考えるのでなく、なぜ問題と感じたのかを考えるようになります。解決のための選択肢と行動を急いで考えるのでなく、いったん立ち止まって自分の思考や認識を顧みたうえで見方を変え、何をすべきか考えられるようになります。
人の行動には必ず理由があります。理由が間違っていても、人に聞かれるまで本人は気づきません。自分の思考や認識が現状や実現性に照らして妥当なのか、自分だけでは無理でも人からの質問があれば、それを頼りに検証できるのです。
迷信による勘違い、迷信がつくる障害
「コーチングとは、すなわち質問をすることだ」などと言う人を信じてはいけません。コーチングとは探求のプロセスであって、質問をし続けることではありません。探求をするのは、自身を批判的に見つめ、自分の論理の穴を見抜き、重きを置いている考えそのものを改めて評価し直し、視点や行動を左右している不安や疑念、希望を明確にするためです。
質問を続けている限り、会話に自分の意見や偏見は入り込まないと考えるコーチがいます。しかし、質問の中にも私見や偏見がまぎれ込み、クライアントを誘導してしまう場合はあります。さらにいえば、完璧な質問をしようと考えれば考えるほど、心はここにあらずの状態に陥ってしまいます。
質問続きのコーチングは尋問を受けているように感じさせ、クライアントと信頼関係をうまく築けません。内省を促す言葉を使わずに質問するだけでは、相手は自然なやりとりとは感じず、公式に沿ってただ機械的に会話が進められているように受け止めてしまいます。
代わりの考え方
質問は、助言の対極にはありません。一方、「内省を促す発言」は、次の章以降でも説明しますが、たとえば、要約する、短く言い表す、クライアントの感情の変化を伝える、などを含み、これらが魔法のような質問より影響力を持つことはよくあります。自分の言葉を誰かの口から改めて聞くのは衝撃的でもあります。それが何年も繰り返し言ってきた言葉だったら、なおさらです。自分とは別の考え方に抱く反発心をコーチから伝えられたり、自分が言ったことの矛盾を提示されたりするのは、刺激的な質問を受けるよりも、頑固な考えの壁を打ち砕くのに有効です。
内省を促す発言を質問に組み合わせると、苦労せずに、より自然なコーチングができます。クライアントの言葉や表現を繰り返していくと、そのうちに、記憶から発したのでなく、好奇心から湧き出てきた質問を投げかけられます。
良い質問を思いつこうと頭を悩ませているあいだは、自分の頭の中に集中して、クライアントに気持ちが向いていません。せっかくクライアントが本当の望みや自分を縛っていた信条や恐怖を話してくれても、聞き逃してしまいます。完璧な質問をしようとするより、その場に神経を集中することのほうが、はるかに大切です。
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