書籍紹介

Hello, Coaching! 編集部がピックアップした本の概要を、連載形式でご紹介します。


変革的コーチング 5つの基本手法と3つの脳内習慣

第3回 迷信その3:コーチは「閉じた質問」ではなく「開かれた質問」をすべきだ

第3回 迷信その3:コーチは「閉じた質問」ではなく「開かれた質問」をすべきだ
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2023年6月23日に、世界トップコーチ30の一人にして、組織心理学博士でもあるマーシャ・レイノルズ博士の『Coach the Person, Not the Problem』の日本語版、『変革的コーチングー 5つの基本手法と3つの脳内習慣』がディスカヴァー・トゥエンティワンより刊行され、その監修をコーチ・エィのファウンダーである伊藤守が務めました。

著者のレイノルズ博士が懸念するのは、コーチングを学び実践する人々が抱きがちな"誤解"。それらを解き、コーチングの真価を伝えるべく、より高い効果をもたらす〈内省的探求〉のコーチングを行うための5つの基本手法と3つの脳内習慣を解説したのが本書です。

第1回 迷信その1:コーチングに熟練するには長い時間がかかる
第2回 迷信その2:質問なくしてブレークスルーや気づきは生まれない
第3回 迷信その3:コーチは「閉じた質問」ではなく「開かれた質問」をすべきだ
第4回 迷信その4:内省を促す言葉は、挑発的だ
第5回 迷信その5:明確なゴールまたは将来像を必ず設定すべきだ

世の中にはコーチングに対する根拠のない批判や決めつけ、思い込みが広まっている

コーチングの価値を損なう迷信は、少なくとも5つあります。それらは正しいときもありますが、原理原則のように扱うとコーチングの効果をかえって薄めます。

それぞれの迷信について説明しながら、代わりにどう考えればクライアントと良い関係を築けるかを述べたいと思います。

第3回 迷信その3:コーチは「閉じた質問」ではなく「開かれた質問」をすべきだ

迷信の出どころ

「はい/いいえ」で答える「閉じた質問」は、その一言で相手の回答が終わってしまいがちです。コーチングやカウンセリング、司法、ジャーナリズムなど、相手から情報を引き出す職業を志す人たちは、自由に答えられる「開いた質問」をして、できるだけ多くの話を得るよう教えられます。コーチング学校によっては、閉じた質問を禁じるところもあります。

ICFの資格認定に関わる人たちは、コーチの能力を測る際に、コーチングセッションの中の開いた質問と閉じた質問の回数を数え、前者のほうが多いかを確認するようです。多くのコーチが、閉じた質問は良いコーチングの対極にあると主張し、経験豊富なコーチが閉じた質問をしても、これを否定的に見ます。

迷信の中の真実

回答が一言で終わると、その場で会話はとぎれます。コーチは言葉の継ぎようがなく、居心地が悪くなることもあります。何か言おうと必死に考えるあいだ、ついクライアントの回答を確かめようと閉じた質問を繰り返してしまうコーチもいます。

クライアントと関係をつくる最初の段階で閉じた質問を使うのは、致命的な場合があります。クライアントがまだコーチを信用していなければ、閉じた質問に対して守りの姿勢を貫きます。自分の思考を検証しようとはしないし、信条を探る問いかけからも身をかわすでしょう。コーチに対するいら立ちのほかは、感情を決して表に出さないでしょう。

閉じた質問は、そうとは気づきにくいですが、誘導的な言葉にもなり得ます。クライアントが何をすべきかわかっていると思うコーチは、その見立ての正しさを確かめるために閉じた質問をします。これは質問に見せかけたアドバイスで、このような聞き方になります。

「たとえば......はやってみましたか?」
「仮に......をするのはいかがでしょう?」

そのコーチは良いアイデアを持っているかもしれませんが、クライアントが現状を自らじっくり考える機会を奪っています。結局クライアントは、コーチを満足させるためにアドバイスを受け入れるかもしれません。


「誰が」「どこで」「いつ」「どのように」などと聞く「開いた質問」は、一言以上の回答を引き出します。制約のない探求的な問いは、なぜその行動をしたのか、または休止しているのかを相手に深く考えさせます。気乗りの薄いクライアントさえも、開いた質問を受けて、自分の視野の限界に気づくときもあるでしょう。

迷信による勘違い、迷信がつくる障害

とはいえ、このように言う人を信じてはいけません。「閉じた質問をすれば、どんな場合でも閉じた回答しか返ってこない。経験の浅いコーチのやることだ」

燃え尽き症候群で仕事を辞めたクライアントがいました。彼女はしばらく家の修理をしたり、子どもと遊んだり、友人と半年間旅に出たりして、楽しく時間を過ごしました。そのうちに、今度はどうも落ち着かなくなってきました。これから何をしたらいいのか、彼女はコーチに相談しました。コーチは、前職で何が一番好きだったのか、何を二度とやりたくないのかを彼女から聞き取りました。

そのうえで、コーチはこう要約しました。「あなたは有能な人たちと新しいものを創造する仕事が好きで、部下の進路面談には興味がない。そういうことでしょうか?」。彼女は「そのとおりです」と答えました。そして、前職で好きだった仕事についてさらに話し始めました。するとコーチは「こうして振り返ってみて、自分が今どんなものをつくり出したいか、思い浮かびますか?」と聞きました。クライアントは「ええ」と答え、理想的な仕事について話し始めました。そこでコーチは聞きました。「あなたは確かに、新しい刺激的なプロジェクトにチームで取り組むのが好きなのですね。そういう仕事はフリーでもできますが、あなたが語る理想的な仕事の話では、常に組織の中にいることを想定していました。次のステップとして新しい職場を見つけようと、自分ではもう決めているのではないですか?」

クライアントはため息をつくと、決めていると認め、さまざまな不安について語り始めました。三つの閉じた質問が、より深い探求へと導いたのです。

コーチとクライアントとのあいだに強いきずながあれば、閉じた質問は、開いた質問と同じくらい相手に刺激を与えられます。質問とは、相手の思考パターンや回路を乱し、深い探求へといざなうためのものです。その質問で相手の心を開けるかどうかが大事な点です。

質問が会話の深化に役立っている限りは、どんな聞き方をしても問題ないのです。

代わりの考え方

閉じた質問は、少なくとも次の3つの場合に有効といえます。

  1. コーチングを通じてクライアントが解決したいものを明確にするとき
  2. 内省を促す言葉が的を射ているか確認するとき
  3. ハッとするような洞察を得たらしいのに、それを口にしようとしないクライアントを促すとき

最後の場合ではたとえば、「ご自分の中で何か変化がありましたか?」などと聞いてあげると、クライアントは背中を押され、目の前に新しく拓けた視野をはっきりと確認します。

第2部で説明する5つの基本的手法の一つ「着地点はどこか」とは、望んでいる結果を見つけ出し、明らかにする行為を指します。クライアントの話を聞いたら、コーチングの中で何を達成するのがその人にとって最も大事なのかをコーチはつかむ必要があります。

その際、コーチングの方向性を決めるために閉じた質問をすることがあるでしょう。するとクライアントは、二つかそれ以上の結果を出したいと言い出すかもしれません。コーチはそれらの選択肢を要約し、どれから最初に取り組みたいか聞きます。

何を達成または解決したいのか、どんなことを理解したいのかを話し合ううちに、実は自信をつけたいんだとか、習慣を変えたいとか、不都合な現実を受け入れられるようになりたいとか、より重要な別の到達点が飛び出すかもしれません。するとコーチは、到達点を変更するか尋ねます。これらの閉じた質問によって、課題が明確になり、確認できます。

内省を促す言葉の妥当性を確認するのにも、閉じた質問は使えます。たとえば、クライアントの言葉を要約したり、感情変化に気づいたり、信条や思い込みを認識したりしたとき、コーチはその要約や観察、推論が的を射ているかどうかクライアントに確認する場合があるでしょう。そのようなとき、クライアントが一言で答えるのでなく、さらに情報を提供してくれることもしばしばあります。

クライアントが、大事なことを達成するためにコーチがいるのだと信じられれば、閉じた質問が鋭くて多少不快感を伴っても、受け入れるでしょう。たとえば、自分の行動が目標達成の妨げになっているとクライアント自身が気づいたとき、コーチは「今のままで満足できますか?」とか、「本当に手に入れたいもののために、何かを変えてみようと思いませんか?」とか、「一年先、行動しなかったことを後悔しませんか?」といった質問を投げかけるかもしれません。これらの閉じた質問に続いて、クライアントの希望や次の行動について開いた質問をするかもしれませんが、このような会話の流れでは、前段の閉じた質問こそが、クライアントに発破をかけるのです。

閉じた質問が効果を発揮するのは、コーチがまずクライアントを賢明で機略に富んだ人だと信じていて、それが伝わっている場合です。自分が間違っているとか力がないといった評価を突きつけられてはいない、とクライアントがわかっている必要があります。コーチがクライアントの言葉を要約したあとに、「これでよいでしょうか?」とか「この傾向を変えたいと思いますか?」とか「ご自分の期待が実現すると思いますか?」などの閉じた質問を誠実な態度で聞くのであれば、クライアントは自分の思考をより明瞭な形で具体化できるで
しょう。

閉じた質問をしてはいけないと思い込まないでください。閉じた質問は、物事を明確にし、クライアントの考察を促します。コーチングの訓練に閉じた質問を再び取り入れて、コーチが上手に使えるようになってほしいと思います。

続きはこちら

変革的コーチング 5つの基本手法と3つの脳内習慣

変革的コーチング 5つの基本手法と3つの脳内習慣

著者: マーシャ・レイノルズ
発行日: 2023年6月23日
出版元: ディスカヴァー・トゥエンティワン


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