『 投手コーチの教え 』吉井理人氏 講演録

2017年1月23日に株式会社コーチ・エィにおいて行われた、北海道日本ハムファイターズの吉井理人ピッチングコーチによる講演会の記録です。


第2回 プロ野球選手と指導者のコミュニケーション

第2回 プロ野球選手と指導者のコミュニケーション

2017年1月23日に、講師として北海道日本ハムファイターズの吉井理人ピッチングコーチを招き、株式会社コーチ・エィにて、社員向けの勉強会が開かれました。

講演では、吉井コーチがどのような経緯でコーチになり、どのような考えで現在コーチングに取り組んでいるかについてお話しいただきました。吉井コーチの講演録を6回にわたって、お届けします。

第2回 プロ野球選手と指導者のコミュニケーション

指導者と選手の関係について、まずは「コミュニケーション」という観点からお話ししたいと思います。

コミュニケーションの失敗は選手生命をリスクにさらす

プロ野球の世界には、能力があっても、十分に力を出せないという選手がいます。その原因の一つが、コーチとのコミュニケーションの失敗です。コーチとコミュニケーションがうまくいかなくて、選手生命を終えてしまうというケースもあります。コミュニケーションなので、どちらにも責任はあるかもしれませんが、僕自身は、コーチの側の責任がより大きいと思っています。

これは自分の経験ですが、プロになって3年めに初勝利を上げた夜、2軍の監督と乱闘になりかけたことがあります。試合が終わって寮で食事をしていたら、2軍の監督がやってきて、やぶから棒に「今日は勝ったけど、あんなピッチングではダメだ」と言ってきました。最初は、監督だし、仕方がないと思って聞いていたのですが、10分も15分もお説教が続いたので、だんだん頭にきてしまって、監督につかみかかりそうになったことがあるんです。先輩たちが止めてくれたので乱闘にはならずに済んだのですが、もし殴っていたら、僕の野球人生はそこで終わっていたかもしれません。選手が指導者を殴るというのはご法度です。

いまから思えば、その監督は、僕が天狗にならないように釘を刺してくれたんだと思うんです。ただそれが、上からガーッというようなコミュニケーションだったために、僕には受け取れなかった。僕も僕で、そこで我慢できずに監督に向かっていったという点で、子どもだったと思います。

このように、コミュニケーションの行き違いで、能力があったとしても、選手として活躍できずに終わってしまうということもあり得るわけです。

いまのエピソードは一つの例ですが、ほかには、こんなケースがあります。

よけいな一言

これは、自分が選手だった時の話です。現役も終わりの頃、試合前のウォーミングアップで投げていたら、見ていたコーチが「あれ? お前、そんな投げ方やったかな?」と言うんです。もうベテランだったので、コーチの言うことに影響されないというメンタルはもっていたんですが、そのときは「え、俺、違うのかな?」となって、自分に注意が向かってしまったんですね。結局、ゲームが始まっても集中力が出なくて、初回でノックアウトされてしまいました。ベテランの選手であっても、コーチと選手の関係性でいうと、やっぱりどうしても指導者のほうが上の立場になるじゃないですか。コーチの一言というのは、とても影響力があると実感した経験です。

 

悪いアドバイス

次は、自分がコーチになってからの話です。日ハムで2軍のコーチをしているときに、球が速くて、ハマッたらすごい、抑えのピッチャーがいました。でも、そのピッチャーは、マウンドで力が入ってしまうと急にストライクが入らなくなってしまう、安定感がないピッチャーだったんですね。それを見て、「この子はたぶん、もうあと2割ぐらい力を抜けば、うまくいくんじゃないかな」と思って、自分の経験からアドバイスをしたんです。

「もうちょっと力を抜いたほうがいいんじゃないか。そうやな、6割ぐらいで投げた方がいいんじゃない?」と言ったら、そのピッチャーは、「そうですね、僕もそう思ってました。やってみます」と言って、次のピッチングに入りました。そうしたら、いつもは150キロくらいの球速なのに、120キロくらいで投げるんです。練習だからいいかと思って見ていたら、試合になっても同じように投げるんですね。ストライクは入るんですが、ボコボコ打たれるんです。それでまた声をかけて、「ふにゃふにゃやけど、あれでええんか?」と聞くと、「はい、ええ感じです」って言うんです。「これはマズいぞ」と思って、試合のビデオを見せたら、本人も「ああ」と気づいたんですね。それで、「お前にはこのアドバイスは向いてないと思うから、もうやめよう。明日から元に戻そう」と言ったら、「はい、そうします」となりました。でも、次の日には、もう前のように投げられなくなってしまったんです。わからなくなってしまったんですね。

これは、その人が、どういう感覚で投げてるかということを考えずに、自分の考えでアドバイスしてしまったという僕の失敗です。本来、コーチというのは選手にとって邪魔になってはならない存在なんですが、コミュニケーションで選手をダメにしてしまったという例です。


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