株式会社コーチ・エィにおいて行われた講演会の記録です。
北海道日本ハムファイターズ ピッチングコーチ 吉井理人氏
第2回 プロ野球選手と指導者のコミュニケーション
2017年03月02日
2017年1月23日に、講師として北海道日本ハムファイターズの吉井理人投手コーチを招き、株式会社コーチ・エィにて、社員向けの勉強会が開かれました。
講演では、吉井コーチがどのような経緯でコーチになり、どのような考えで現在コーチングに取り組んでいるかについてお話しいただきました。吉井コーチの講演録を6回にわたって、お届けします。
第1回 | 日ハムの投手コーチを引き受けるまで |
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第2回 | プロ野球選手と指導者のコミュニケーション |
第3回 | 仰木・野村監督、名指導者たちから学んだこと |
第4回 | ルーキーからダルビッシュまで、異なる4つの育成ステージとは? |
第5回 | 観察、質問、そして相手の立場になって考える |
第6回 | 投手コーチの仕事は選手のコーチングだけではない |
第2回 プロ野球選手と指導者のコミュニケーション
指導者と選手の関係について、まずは「コミュニケーション」という観点からお話ししたいと思います。
コミュニケーションの失敗は選手生命をリスクにさらす
プロ野球の世界には、能力があっても、十分に力を出せないという選手がいます。その原因の一つが、コーチとのコミュニケーションの失敗です。コーチとコミュニケーションがうまくいかずに、選手生命を終えてしまうというケースもあります。コミュニケーションなので、どちらにも責任はあるかもしれませんが、僕自身は、コーチの側の責任がより大きいと思っています。
これは自分の経験ですが、プロになって3年めに初勝利を上げた夜、2軍の監督と乱闘になりかけたことがあります。試合が終わって寮で食事をしているところに2軍の監督がやってきて、やぶから棒に「今日は勝ったけれど、あんなピッチングではダメだ」と言うのです。最初は、監督だし、仕方がないと思って聞いていたのですが、10分も15分もお説教が続いたので、だんだん頭にきてしまって、監督につかみかかりそうになったのでs。先輩たちが止めてくれたので乱闘にはならずに済んだのですが、もし殴っていたら、僕の野球人生はそこで終わっていたかもしれません。選手が指導者を殴るというのはご法度です。
いまから思えば、その監督は、僕が天狗にならないように釘を刺してくれたんだと思います。ただそれが、上からガーッというようなコミュニケーションだったために、僕には受け取れなかった。僕も僕で、そこで我慢できずに監督に向かっていったという点で、子どもだったと思います。
このように、コミュニケーションの行き違いで、能力があったとしても、選手として活躍できずに終わってしまうということもあり得るわけです。
いまのエピソードは一つの例ですが、ほかには、こんなケースがあります。
よけいな一言
これも、自分が選手だった時の話です。現役も終わりの頃、試合前のウォーミングアップで投げていたら、見ていたコーチが「あれ? お前、そんな投げ方だったかな?」と言うんです。そのときはすでにベテランだったので、コーチの言うことに影響されないメンタルはもっていたのですが、そのときは「え、俺、違うのかな?」と思い、自分に注意が向かってしまったのです。結局、ゲームが始まっても集中できず、初回でノックアウトされてしまいました。ベテランの選手であっても、コーチと選手の関係性でいうと、やっぱりどうしても指導者のほうが上の立場になります。そういう中でのコーチの一言というのは、とても影響力があると実感した経験です。
悪いアドバイス
次は、自分がコーチになってからの話です。日ハムで2軍のコーチをしているときに、球が速く、ハマッたらすごい、抑えのピッチャーがいました。でも、そのピッチャーは、マウンドで力が入ってしまうと急にストライクが入らなくなってしまうという弱点をもった、安定感のないピッチャーでした。それを見て、「この子はたぶん、もうあと2割ぐらい力を抜けば、うまくいくんじゃないか」と思い、自分の経験からアドバイスをしたんです。
「もうちょっと力を抜いたほうがいいんじゃないか。6割ぐらいで投げてみてはどうか」と言うと、そのピッチャーは、「そうですね、僕もそう思っていました。やってみます」と言って、次のピッチングに入りました。そうしたら、いつもは150キロくらいの球速なのに、120キロくらいで投げるんです。練習だからいいかと思って見ていたら、試合になっても同じように投げるんですね。ストライクは入るんですが、ボコボコ打たれるんです。それでまた声をかけて、「ふにゃふにゃやけど、あれでいいのか?」と聞くと、「はい、いい感じです」と言うのです。「これはマズい」と思い、試合後にビデオを観せたところ、本人も気づいたんですね。そこで、「お前にはこのアドバイスは向いてないと思うから、もうやめよう。明日から元に戻そう」と言ったら、「はい、そうします」となりました。しかし、次の日には、以前のように投げられなくなってしまったんです。わからなくなってしまったんですね。
これは、その人が、どういう感覚で投げているかということを考えずに、自分の考えでアドバイスしてしまったという僕の失敗です。本来、コーチというのは選手にとって邪魔になってはならない存在なのですが、コミュニケーションで選手をダメにしてしまったという例です。
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