講演録

株式会社コーチ・エィにおいて行われた講演会の記録です。


投手コーチの教え
北海道日本ハムファイターズ ピッチングコーチ 吉井理人氏

第5回 観察、質問、そして相手の立場になって考える

第5回 観察、質問、そして相手の立場になって考える
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2017年1月23日に、講師として北海道日本ハムファイターズの吉井理人投手コーチを招き、株式会社コーチ・エィにて、社員向けの勉強会が開かれました。

講演では、吉井コーチがどのような経緯でコーチになり、どのような考えで現在コーチングに取り組んでいるかについてお話しいただきました。吉井コーチの講演録を6回にわたって、お届けします。

第1回 日ハムの投手コーチを引き受けるまで
第2回 プロ野球選手と指導者のコミュニケーション
第3回 仰木・野村監督、名指導者たちから学んだこと
第4回 ルーキーからダルビッシュまで、異なる4つの育成ステージとは?
第5回 観察、質問、そして相手の立場になって考える
第6回 投手コーチの仕事は選手のコーチングだけではない

観察、質問、そして相手の立場になって考える

コーチになりたての頃、最初はとにかく見ているだけでした。吉井流でよければ教えることはできましたが、みんなに当てはまるかどうかわからず、自信もありませんでしたし、選手時代に受けたコーチングで参考になるスタイルがなくて、どうしていいのかわからなかったからです。それで、見ているだけ、観察しているだけでした。でも、選手は選手で困っていますから、「コーチ、どうですか」と聞いてきます。もちろん仕事ですから、聞かれたらアドバイスをするんですが、聞かれたときにはいつも経験談で答えていました。でも、それで大失敗したことがあり、「こんな指導でいいのだろうか」と思うようになり、大学院に行くことにつながりました。

現在のコーチングスタイルでも、まず最初は「見る」、つまり「観察」です。これはどんなコーチでもやっていることだと思います。次に「質問」です。ボブ・アポダカコーチ方式で、コーチから選手に対して「何をしたいか」ということを質問するんです。それから「いまはどうなのか」と聞く。こういう方式に変えました。これには2つの狙いがあります。

まず最初は「自己客観視」。日記の話もしましたが、自分のプレイを、少し離れたところからもう一人の自分が見る、つまりメタ認知を促すという狙いです。自分の内側に向かって反省してほしい、顧みてほしい、という意味をこめて会話をしようと心がけています。

もう一つは「信頼関係の構築」です。まず、選手の主張をコーチが受け入れる。「そうか、お前はそう思ってるんやな。それでええんちゃう?」というように、まず選手の主張を受け入れて信頼関係を築く。それによって、困ったときにコーチの言うこともちゃんと聞き入れやすい状態をつくるという意味で、こういった質問をするようにしています。

もうひとつ、時間はかかりますが「代行」です。これは、その選手の立場になって考えるということ。コーチングをするときに「こう言ったら、この選手はどんな感じで受け取めるんだろう」ということを、しっかり選手の立場になって考える。そのためには選手とたくさん話をしなくてはいけません。それができて初めて、コーチングが機能するようになります。選手に「頭が離れてるぞ」と言ったとします。選手にしてみれば、「そんなことはわかってるよ。でもできないんだよ」ということがあるわけです。人それぞれ感覚が違うので、同じ言葉であっても、相手は自分が伝えたいと思っている通りには受け止めないかもしれない。そこをしっかり考えて、ちゃんと伝わるような言葉やタイミングを選ばないといけないと思っています。

コーチも日々勉強

実は、現役時代、コーチや解説者というのは野球のレベルが低い人間のすることだと思っていました。選手時代は、自分の経験ばかり言ってくるコーチたちに対して「アドバイスは邪魔や、なにもいらん」と思っていました。引退してすぐの頃もそう思っていたので、実を言えば、自分がコーチになったことも、最初はすごく恥ずかしかったんです。

コーチをした最初の5年間は、そんな状態でしたが、それでもなんとなく成績が出てしまいました。5年のうち、1軍のコーチを4年間やりましたが、その間に、2回優勝したんです。防御率もよかったのですが、「本当にこれでいいのかなあ?」という気持ちがあり、大学院に行って、コーチにハマり、いまに至っています。そんな中で、最終的には「コーチも日々勉強」と思うようになりました。

ロジェ・ルメールというサッカーの監督が「学ぶことをやめたら、教えることをやめなければならない」と言ったのですが(※1)、まさにそうだと思います。サッカー界では、「教えてできないのは、選手ではなくてコーチが悪い、もっと違う方法でまた教えなければいけない」と考えるそうです。コーチをするにしても、いろいろ勉強しないと、うまくいかないのではないかと思います。

(※1)『学ぶことをやめたら、教えることをやめなければならない』2001年1月14日、日本で行われた『第2回フットボールカンファレンス』の講師をつとめたロジェ・ルメール氏(当時フランス代表監督)が日本の指導者500人に対して語った言葉)


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