『 投手コーチの教え 』吉井理人氏 講演録

2017年1月23日に株式会社コーチ・エィにおいて行われた、北海道日本ハムファイターズの吉井理人ピッチングコーチによる講演会の記録です。


第4回 ルーキーからダルビッシュまで、異なる4つの育成ステージとは?

第4回 ルーキーからダルビッシュまで、異なる4つの育成ステージとは?

2017年1月23日に、講師として北海道日本ハムファイターズの吉井理人ピッチングコーチを招き、株式会社コーチ・エィにて、社員向けの勉強会が開かれました。

講演では、吉井コーチがどのような経緯でコーチになり、どのような考えで現在コーチングに取り組んでいるかについてお話しいただきました。吉井コーチの講演録を6回にわたって、お届けします。


ダブルゴールでコーチする

スポーツでは、選手やチームが「主体」です。これは本来、わかりきったことなのですが、実際の現場では、コーチが主体になってしまって、「手柄をとろう」と思って指導するということが起こります。でも、やっぱり、チーム、選手が主体でないといけません。

コーチが指導するときに、基本になる行動が2つあると考えています。「指導行動」と「育成行動」です。

「指導行動」とは、野球のピッチャーでいったら、いい球を投げるピッチングフォーム、それから「戦術」です。このバッターには真っ直ぐ投げるとか、どこに投げるとか、種目の専門な技術を教えることです。こういったことを教えるには、専門的な知識やトレーニングの知識が必要です。

「育成行動」というのは、練習の取り組み方とか、その選手のプレイスタイル、また、ユニフォームを着ていないときの立ち振る舞いなどについて指導すること、つまり、「お行儀よくしなさい」ということです。また、緊張したときにどう対処するかとか、そういった心理的な対応、あと、世間にどう見られているかといったことも含まれます。僕自身はどちらかというとできていない人間だったので、「育成行動」について選手に話すときは後ろめたい気持ちがあります。

つまり、この2つの行動を軸に、野球がうまくて、人間としてもできている選手をつくりたい。なので「ダブルゴール」、指導には2つのゴールがあるのです。これが理想です。

選手のレベルやタイプに合わせて指導する

基本的に、この2つの行動を指導していくのですが、いろいろなタイプの選手がいますし、野球のレベルもいろいろです。相手に合わせてこの2つの行動を使い分ける必要があります。それを表しているのが、下記の図です。

プロフェッショナルコーチのためのスポーツコーチング型 PM モデル(図子,1999;2011)

「スポーツコーチング型PMモデル」と書いてあります。PM理論というのはもともと経済学用語で、「P」が「パフォーマンス」で「パフォーマンスをあげること」、「M」は「メンテナンス」で、「集団を維持する」ことを意味します。この図はそれを「指導行動」と「育成行動」にあてはめてスポーツ型にしたもので、昨年(2016年)亡くなられた筑波大学の図子浩二先生という先生が図にしたものです。横の軸が技術指導の「指導行動」、縦の軸が「育成行動」です。

まず、第1ステージというのは、初心者の選手やチームのことです。ここでは、指導型技術や体力を鍛えていくことが優先されます。プロ野球では、ルーキーから3年目ぐらいの選手がここに入ります。彼らは、志があるので、モチベーションが高い。選手としては技術がありませんが、教えればすぐ上達するので、メンタルや育成の部分についてはあまり言う必要はない。まだ、右も左もわからないので、「とりあえずやっておけ」いう感じでもそれほど問題ありません。

次に第2ステージですが、ここは中級者段階のチームで、「指導」と「育成」の両方のコーチングスタイルが必要です。ここには、2軍としてはレギュラーで、ときどき1軍に行くけれど、またすぐに2軍に帰ってくる、といった選手が当てはまります。そういう選手というのは、課題がだんだん高度になり、複雑になってきます。そうなると、やっぱりモチベーションも落ちてきやすくなります。課題が複雑になってきて、パフォーマンスが上がらないし、技術も停滞してしまって、やる気がガクンとなくなったりしてしまうことが多くあります。1軍に行って打たれては、心に傷を負って帰ってくる選手もたくさんいます。そういう選手たちには、この「育成」型の関わりが重要になります。「あなた方は、こういう理由で野球をやってるんですよ、あなたはこう見られてるのだから、こういうふうにやりなさい」というコーチングをしなければならないし、技術もしっかり指導してかなければなりません。コーチにとっては一番手間がかかるし、情熱が必要なステージです。2軍コーチの仕事が、ここに当てはまります。

次が第3ステージ。ほとんどの1軍の選手がここに当たると思います。技術的にはすごくレベルが高くなって、成熟しかかってはいるのですが、なんて言うんでしょう、自分の競技に対しての位置づけとか優先順位が、まだちゃんとできていない。たとえば、野球はうまいけれども夜に遊んでしまって、次の日にコンディションが悪くてチームに迷惑をかけるとか、そういったことです。プロ野球界には、そういう選手たちがたくさんいます。彼らは野球がうまいので、一丁前のプライドはあるんです。あるんですが、逆に、それが邪魔をして野球がうまくいかない。そういう選手たちに技術の指導をすると、「そんなの、わかってるよ」となって、やらなくなってしまいます。実際、僕自身が長くいたところです。コーチや監督とケンカして、すぐトレードされたりとか、、、。そういう選手たちには、モチベーションやプレイスタイル、練習の取り組み方といった育成型のモデルで指導していかなければいけないのではないかと思っています。

第4ステージは、エキスパートです。技術も精神も成熟していて、コーチは寄り添うだけです。相談役みたいな立場です。彼らは本当に上級なので、何か問題があったときに、コーチがアドバイスする内容も高度になってきて、油断しているとたいへんな目に遭います。たとえば、ダルビッシュはここに当たる選手ですが、あいつはコーチを試すんです(笑)。ダルビッシュが投げている試合というのは、僕も思考回路を切って、ボサーッと観ていることが多いのですが、そういうときに限って「今日の僕はどうでした?」みたいなことを聞いてくるんです。「ごめん、見てなかった」なんて言ったら、そこで信頼関係というのはうまくいかなくなってしまうので、やはり第4ステージにいる選手たちにも目を光らせておく必要があります。

このように「指導行動」と「育成行動」を使い分けて、取り組んでいます。この図にあるように、4つを順番に進むのではなく、実際には、逆戻りしたりして、ややこしくなることもあります。そういう場合は、僕もどうしたらいいかわからないので、「気合いや!」などと、わけのわからないことを言っていますが、いまはそこが自分の課題かなと思っています。


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