プロフェッショナルに聞く

さまざまな分野においてプロフェッショナルとして活躍する方たちに Hello, Coaching! 編集部がインタビューしました。


コミュニケーションで日本の医療現場を変える
千葉大学医学部附属病院 総合医療教育研修センター 横尾英孝 先生

第1章 「全身を診るため」に選んだ糖尿病というフィールド

※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

第1章 「全身を診るため」に選んだ糖尿病というフィールド
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国内でも急速に増え続ける糖尿病患者。生活習慣病である糖尿病の診療には、チーム医療や患者さんと医療者とのコミュニケーションが重要な要素です。糖尿病診療現場でのチーム医療とは?コーチングを活かしたコミュニケーションの活性化とは?医療従事者の人材育成とは?現在、千葉大学病院総合医療教育研修センターで教育専任医師としても活躍されている、横尾英孝先生にお話をうかがいました。

第1章 「全身を診るために」選んだ糖尿病というフィールド
第2章 糖尿病の診療のために、チーム医療に取り組む
第3章 コーチングを取り入れたチーム医療とは
第4章 チーム医療を成功に導く鍵とは
第5章 医師の人材開発
第6章 コミュニケーションは一つの専門技術

※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

第1章 「全身を診るため」に選んだ糖尿病というフィールド

糖尿病診療の傍ら、教育専任医師として次世代の医師の指導にもあたる横尾先生。数ある診療科の中からなぜ糖尿病を選んだか、その背景をうかがいました。

横尾先生はこれまでどのような病院で勤務されてきたのでしょうか。

横尾 千葉県市川市にある総合病院で2年間研修医を務めたあと、専門科目を糖尿病に決めて、大学病院の医局に入りました。若いうちは、いろんな医療機関や関連病院を転々とします。大学院に進む前に横浜労災病院に勤務し、大学院修了後は旭中央病院(国保旭中央病院、千葉県旭市)に大西(大西俊一郎医師)という同期と赴任しました。旭中央病院には2年務めて、2016年4月に千葉大学病院に戻ってきました。今年で医師免許をとって13年目になります。

横尾先生が「お医者さんになろう」と思われたきっかけについて教えてください。

横尾 はっきりとは覚えていないのですが、小学校低学年頃から医師になりたいと思っていたような記憶があります。父方の祖父が内科医で、医師という仕事が身近だったことも関係しているかもしれません。また、6歳のときに病気をして、松戸市立病院の小児科に入院した体験も大きかったと思います。お腹が痛くて、食事もとれなくてつらかったのですが、そのときに担当してくれた先生や看護師さんがとてもあたたかかったのです。そういった経験もあり、だんだんと医師になりたいという想いがふくらんでいったのだと思います。

医師になって、どんなことをやりたいと思っていましたか。

横尾 もともと人間の体に興味があり、なぜ病気になるのだろうとか、なぜ病気が治る人と治らない人がいるのだろうといったことがとても不思議でした。病気を診断して治療をすることで、患者さんの役に立てたらいいと漠然と思っていました。

糖尿病を専門に選んだ理由

専門科を決めるときに、どういう背景で糖尿病を選択されたのでしょうか。

横尾 もともと診療科の中では内科に興味がありました。その中でも、幅広い診療ができるような科を希望していました。たとえば循環器科であれば心臓や血管、腎臓内科であれば腎臓が診療の中心になりますが、全身を診たかったこともあって糖尿病の分野を選びました。我々の分野は糖尿病や脂質異常症といった生活習慣病、ホルモンの病気などを扱っていますが、血糖やホルモンは、ちょっとバランスが狂うと全身に大きな影響が出ます。糖尿病だと脳卒中を起こしやすくなりますし、腎臓も悪くなります。ホルモンの量や出方次第で血圧が上がったりも下がったりもする。また、生活習慣病はすごく身近な病気です。私の身内にもコレステロールや血圧が高い人、心筋梗塞や脳梗塞を患った人がいます。そういった病気は、日々の食生活や血糖値、血圧などが大きく影響しているからだと知り、同時に、予防しようと思えばできるのではないかと思いました。しかし糖尿病も高血圧もまだ完全に治すことは難しい病気なので、ずっと治療が必要です。今、これだけ医学が進歩し、癌も早期発見すれば内視鏡で治る時代であってもです。研究をやるにしても、まだ完治できない病気の方が面白いのではないかというのもありました。もちろん、現在勤める医局の診療科のスタッフが当時あたたかく勧誘してくださったということも、この領域を選んだ理由の一つです。

糖尿病とはどんな病気?

糖尿病は完治が難しい病気だということですが、現場ではどのように診療に取り組まれているのでしょうか。

横尾 糖尿病の診療では、病気がこれ以上悪化しないように、また合併症が進行しないようにするため、患者さんに一定の我慢を求めることになります。コーラが大好きで1日2リットル飲みたいという人に、残念ながら「どうぞご自由に」とは言えません。体を動かすのがおっくうで「ずっと家でゴロゴロしていたい」という人には、「散歩しましょう、体操をしましょう」と勧める必要がある。現在症状や合併症が全くない予備軍の人たちに対しても、定期的な検査と通院の継続を指導しなければなりません。糖尿病診療は、患者さんの行動変容が求められる分野なのです。血糖値が高い状態が続いても病気にならないのなら「好きなだけ食べて、ぐうたらしてていいですよ」と言えるのですが、そういうわけにはいきません。風邪や骨折であれば、診療は治った時点で終わるのですが・・・。なので患者さんの中には、この長い糖尿病人生を悲観したり、治療に伴う我慢や制限を大きな負担に感じてしまう方がいらっしゃいます。糖尿病の診療の秘訣は、患者さんと伴走しつついかに治療の負担感を減らすかにかかっていると私は考えています。

(次章に続く)

聞き手・撮影: Hello Coaching!編集部

横尾英孝 先生 / 千葉大学医学部附属病院 総合医療教育研修センター 特任助教(兼任・アテンディング)、糖尿病・代謝・内分泌内科
1998年3月開成高校卒業、1999年4月千葉大学医学部医学科に入学。在学中は水泳部とバンドサークルに所属。医師免許取得後は東京歯科大学市川総合病院、千葉大学医学部附属病院、横浜労災病院に勤務、2013年3月医学博士取得。専門領域は糖尿病。2014年4月に旭中央病院に赴任した際、同期と共にコーチングを学びチーム医療の活性化を試みる。2016年4月より千葉大学病院で糖尿病診療の傍ら、プロフェッショナルコーチとして医療職の人材開発、医学生や研修医への教育にも力を注ぐ。

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