プロフェッショナルに聞く

さまざまな分野においてプロフェッショナルとして活躍する方たちに Hello, Coaching! 編集部がインタビューしました。


コミュニケーションで日本の医療現場を変える
千葉大学医学部附属病院 総合医療教育研修センター 横尾英孝 先生

第2章 糖尿病の診療のために、チーム医療に取り組む

※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

第2章 糖尿病の診療のために、チーム医療に取り組む
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国内でも急速に増え続ける糖尿病患者。生活習慣病である糖尿病の診療には、チーム医療や患者さんと医療者とのコミュニケーションが重要な要素です。糖尿病診療現場でのチーム医療とは?コーチングを活かしたコミュニケーションの活性化とは?医療従事者の人材育成とは?現在、千葉大学病院総合医療教育研修センターで教育専任医師としても活躍されている、横尾英孝先生にお話をうかがいました。

第1章 「全身を診るために」選んだ糖尿病というフィールド
第2章 糖尿病の診療のために、チーム医療に取り組む
第3章 コーチングを取り入れたチーム医療とは
第4章 チーム医療を成功に導く鍵とは
第5章 医師の人材開発
第6章 コミュニケーションは一つの専門技術

※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

第2章 糖尿病の診療のために、チーム医療に取り組む

最近よく耳にする「チーム医療」。日本の病院では実際にはどんなことが行われているのでしょうか。そして、横尾先生がご自身の診療において、チーム医療という考え方を取り入れた背景にはどのような思いがあったのでしょうか。

終わりのない診療

糖尿病の医療現場だからこそ抱えている特徴的な課題や問題というのはあるのでしょうか。

横尾 糖尿病の診療というのは、患者さんに負担や我慢を求めなければならない上に、診療の終わりがありません。患者さんが元気で長生きすることが最終目標なので、天寿を全うするまで続く診療とも言えます。そのような中、患者さんの数が急増しているので、一人一人に行動変容を促すようなアプローチが十分にできていないというのが現状だと思います。本当は、1人に30分ぐらい時間をとって対話する時間をとりたいのですが、1日に何十人という患者さんがいらっしゃるので、どうしても一人あたりの時間が限られてしまいます。その結果、「薬を増やします」、「減量して下さい」といった一方的な指導になりがちで、よい診療に結び付かないこともしばしばです。

ずっと関わり続けるというのはたいへんなことだと思うのですが、ドクターや看護師の方たちはどのように対応しているのですか。

横尾 うまくいけば、患者さんとの間に信頼関係ができて、私たちに悩みを相談するようになったり、こちら側からも患者さんに色々な提案やアドバイスをしやすくなったりします。もちろん、逆に関係が気まずくなってしまうこともあり、そのような場合、患者さんが通院や治療をやめてしまうことも起こり得ます。なので、私たちはいかに患者さんが通院と治療を継続していただくかということを最も重視します。もちろん人間同士ですから相性もありますが、異動でもしない限り我々医療者の方から患者さんと離れることは基本的にありません。お互いに反りが合わないとしても、関わりは続いていくのです。患者さんとどう信頼関係を構築していくかということについては、糖尿病診療に関わる多くの医療関係者が悩んでいると思います。

その一方で、信頼関係ができて「この先生と一緒に治療しよう」と思ってくださる患者さんが増えたら、時間が不足するという問題が生じますね。

横尾 おっしゃる通りです。担当医を信頼し、ずっとその担当医の外来に通いたいと言ってくださるのは大変嬉しいのですが、患者さんの希望通りに全て引き受けてしまうと外来の予約がパンクして、待ち時間が長くなったり、1人あたりに割く診療の時間が短くなったりしてしまいます。病診連携のことを考えて、病状や治療が落ち着いている患者さんは、一般外来や近隣のクリニックに通院を切り替えていただくようお願いしていますが、どうしても大病院の専門外来に通院したいという患者さんも根強くいらっしゃるので・・・。患者さんが待たされた上に短い診療時間であっても治療の満足度を落とさない、また、十分納得していただいた上で近隣の医療機関に通院を切り替えていただく、そのような対応が求められる場面が多いので、患者さんとのコミュニケーションは、糖尿病診療に関わるすべての医療者にとって極めて大事なツールであると考えています。

チーム医療とはどういう取り組みか

横尾先生は、どのようなきっかけでチーム医療について考えられるようになっていったのでしょうか。

横尾 私は当初、糖尿病の病態について知識が増えたり、薬の上手な使い方が身に着いたり、専門医(「糖尿病専門医」資格)を取得したりして、「自分一人で何でもマネジメントできる」と思っていました。医師になって7,8年目頃だったでしょうか。しかし、さらに経験を積んでいく中で1つの大きな壁にぶつかりました。旭中央病院という莫大な糖尿病患者を抱える地域の中核病院に赴任したのがきっかけです。来る日も来る日も眼や腎臓、心臓、足に重大な合併症を抱えた重症の患者さんの診療に追われ、最初の1,2か月で「一人でやれることには限界がある」ということを同期の大西医師と痛感しました。発想や方針の大きな転換が必要だとそのとき思ったのです。

「チーム医療」というのは、具体的にはどういう取組みなのでしょうか。

横尾 一人の患者さんの治療にいろいろな職種の医療関係者がチームで介入する、チームが情報や目標を共有して診療に当たることと認識しています。

いろいろな職種の医療者が関わるとのことですが、どういう役割の人たちがいらっしゃるのでしょうか。

横尾 糖尿病や生活習慣病に関しては、看護師や栄養士の出番が多いと思います。日々の生活や食事がとても大事な領域ですので。他には運動療法やリハビリを担当する健康運動指導士や理学療法士、糖尿病の検査に関わる臨床検査技師、服薬やインスリン注射指導を担当する薬剤師など。歯の状態も食事療法と密接に関連するので、歯科医や歯科衛生士の役割も重要です。合併症が進行すると医療費の問題や介護認定の必要性が生じたりするので医療ソーシャルワーカーに相談することもあります。おそらく、あらゆる医療職が関係すると思います。

チーム医療の流れ

「チーム医療」という取り組みは、一般的になってきているのでしょうか。

横尾 日本も海外も、チーム医療を推進する流れがあります。ただ、日本はまだ海外ほどうまく機能していないのではないでしょうか。日本では医師の権限が強く、医師の指示がないと他の職種はなかなか動けないようなところがありますし、チーム医療が大事だとわかっているけれどもうまく連携がとれない、多忙で話し合う時間がないといった状況が多いと思います。連携がうまくいっている特定の地域もありますが、まだまだ全国的には普及していません。

チーム医療の進み具合は診療科ごとに差があったりするのでしょうか。

横尾 恐らくあると思います。たとえば外科系は、いつもチームで回診や包帯交換、傷の消毒などをやっています。もともとチームをベースとした医療が根づいている診療科があるかと思えば単独プレーに近い診療科もありますし、同じ糖尿病であっても担当医や医療機関によっても差があることが予想されます。

チーム医療というのは、どのような流れで始まっていくのでしょうか。やはり医師が旗振りをして始めるものなのですか。

横尾 最初に旗を振るのが必ずしも医師である必要はなく、求められるのは関わるメンバーが全員、課題や目的を共有して一緒に物事にあたる姿勢です。ただ、他の部署と交渉をしたり、メンバー同士をつなげたりする役割は、医師がよいのかもしれません。特に相手が医師の場合には、ですね(笑)。医師の権限の強さをうまく活用するといったところでしょうか。ある地域では、唯一の常勤の糖尿病専門医が退職してしまったことでチームが結束したそうです。重大な問題が発生するというのもチーム医療が始まるきっかけになるのかもしれませんね。

(次章に続く)

聞き手・撮影: Hello Coaching!編集部

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