プロフェッショナルに聞く

さまざまな分野においてプロフェッショナルとして活躍する方たちに Hello, Coaching! 編集部がインタビューしました。


コミュニケーションで日本の医療現場を変える
千葉大学医学部附属病院 総合医療教育研修センター 横尾英孝 先生

第3章 コーチングを取り入れたチーム医療とは

※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

第3章 コーチングを取り入れたチーム医療とは
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国内でも急速に増え続ける糖尿病患者。生活習慣病である糖尿病の診療には、チーム医療や患者さんと医療者とのコミュニケーションが重要な要素です。糖尿病診療現場でのチーム医療とは?コーチングを活かしたコミュニケーションの活性化とは?医療従事者の人材育成とは?現在、千葉大学病院総合医療教育研修センターで教育専任医師としても活躍されている、横尾英孝先生にお話をうかがいました。

第1章 「全身を診るために」選んだ糖尿病というフィールド
第2章 糖尿病の診療のために、チーム医療に取り組む
第3章 コーチングを取り入れたチーム医療とは
第4章 チーム医療を成功に導く鍵とは
第5章 医師の人材開発
第6章 コミュニケーションは一つの専門技術

※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

第3章 コーチングを取り入れたチーム医療とは

患者数がとても多い旭中央病院の糖尿病代謝内科に赴任した横尾先生。チーム医療の中にどのようにコーチングを取り入れていったのでしょうか。

旭中央病院に赴任された当時、糖尿病の診療はどのような状況だったのでしょうか。

横尾 千葉大の同期である大西医師と二人で赴任することになったのですが、それまでは、私たちよりずっと年配の部長ほぼ一人という体制でした。体力的にも厳しく、一人だと身動きがなかなかとれないという点でも、全ての患者さんに介入することは困難でした。二人体制になり、少しは活動や診療の幅が広がりましたが、一人が二人になったところで、すべてが解決するわけではありません。

一緒に赴任された同期の大西先生とチーム医療に取り組まれたとのことですが、お二人にどういう課題意識があったのでしょうか。

横尾 その時点で、患者さんの数は4000人以上いました。糖尿病の知識や治療の動機が乏しい方も多く、診療をしていて「これはまずい」と思いました。また、若輩ながらも我々二人が院内の糖尿病診療を率いる立場でしたので、「自分たちで何とかしなければならない」という思いが強くありました。診療圏人口100万人を背負っているわけですから。しかし、赴任したばかりで患者さんも職員もみんな初対面ですし、何から手をつけていけばよいものか・・・。

当時医師になってちょうど10年目、生活習慣病の診療というのは、最終的には患者や他の医療スタッフとのコミュニケーションや信頼関係が何よりも重要な要素であることは認識していたのですが、以前から悩みがいろいろとありました。そりが合わないスタッフを避けてしまったり、患者さんが感情的になったときに落ち込んで立ち直るのに時間がかかったり・・・。そんなときに、同じ悩みを抱いていた同期から、他病院の医局同門の先生が糖尿病患者にコーチングを応用していること、企業の人材養成でコーチングがよく使われていることを聞き、コーチングを学んでチーム医療を活性化させてみようという提案があったのです。

実際にコーチングを取り入れたチーム医療に取り組み始めたのは、赴任されてからどれくらい経ってからだったのでしょうか。

横尾 たしか、数ヶ月以内です。同期から声をかけられて1、2ヶ月で、コーチ・エィのプログラムに申し込んで勉強を始めました。

コーチ・エィのプログラムについての情報はこちら
coachAcademia(コーチ・エィ アカデミア)

旭中央病院では、具体的にどのように取り組みを始められたのでしょうか。

横尾 いきなり4000人の患者さんすべてに対応するのは不可能なので、まずは糖尿病の治療に関わる医療関係者間の関係性構築や、彼ら一人ひとりのモチベーションを高めることを考えました。受講したプログラムの中ではコーチングを実践することが推奨されていたので、糖尿病診療に関わるいろいろな医療職のコアになるような方々を、私と同期で5人ずつ選定し、計10人に対して二人でコーチングを始めました。

横尾先生はどんな方たちをコーチされたのですか。

横尾 最初のメンバーは看護師や臨床検査技師、健康運動指導士、薬剤師でした。私と同期で、各職種バランスよくコーチングが実践されるように配慮しました。

対象となられた方たちは、どのような受け止め方をされたのでしょう。

横尾 予想以上に好感触でした。我々としては「日々多忙なのに、時間を割いて協力してくれるだろうか」という懸念があったのですが、みなさん、とても喜んでくださいました。日本は、医師を上位とする医療職のヒエラルキーが比較的強く、旭中央病院もそうだったのだと思います。「先生と毎週お話しできるなんて光栄です」とか、「いままで、定期的に話をする時間をとってくれた先生は一人もいませんでした」という声がきかれたのですが、考えてみればそうだったかもしれません。若い医師は1年、2年ですぐ異動してしまうことが多いですし、管理職クラスになると、なかなか時間がとれなくなってしまうので。

現れ始めた成果

診療の現場において、実際に変化が生まれてきたと感じられたのは、取組みを始めて、どれくらい経ってからでしょうか。

横尾 2014年の秋頃に始めたのですが、2,3か月たった頃から、コーチングをしたメンバーがよく話すようになり、チーム会議でのディスカッションや新しいアイディアが活発に出るようにもなりました。チームメンバーが自主的にいろいろなことを考えて、動くようになっていったのではないかと思います。また、糖尿病教室に参加する患者さんの数が増えたり、患者さんの糖尿病の状態を反映するHbA1cという値が改善したりもしました。診療の結果にはいろいろな因子が入るので、すべてコーチングの影響だとは断定できませんが、何かが変わり始めた、そのような印象でした。

いったいどこに変化が起こって、そういう結果が生まれたのでしょうか。

横尾 チームメンバーが、自分自身の役割や、具体的に何をすべきなのかをより明確に認識するようになったのではないでしょうか。それが糖尿病教室の参加や治療の継続を患者に促したり、地元の産業祭りなどにブースを出して地域住民に「糖尿病というのは無症状だけど放置すると怖い病気だよ」と呼びかけたりといった行動につながり、そこでメンバーと接した患者の意識や行動が変わったのではないかと推測しています。さらに、私たちが肌で感じて驚いたのは、コーチングを受けていないメンバーにも同様の変化がみられたことです。コーチングは受けた人だけでなく周囲の人にも影響を及ぼすのだと実感しました。

(次章に続く)

聞き手・撮影: Hello Coaching!編集部

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