プロフェッショナルに聞く

さまざまな分野においてプロフェッショナルとして活躍する方たちに Hello, Coaching! 編集部がインタビューしました。


コミュニケーションで日本の医療現場を変える
千葉大学医学部附属病院 総合医療教育研修センター 横尾英孝 先生

第5章 医師の人材開発

※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

第5章 医師の人材開発
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国内でも急速に増え続ける糖尿病患者。生活習慣病である糖尿病の診療には、チーム医療や患者さんと医療者とのコミュニケーションが重要な要素です。糖尿病診療現場でのチーム医療とは?コーチングを活かしたコミュニケーションの活性化とは?医療従事者の人材育成とは?現在、千葉大学病院総合医療教育研修センターで教育専任医師としても活躍されている、横尾英孝先生にお話をうかがいました。

第1章 「全身を診るために」選んだ糖尿病というフィールド
第2章 糖尿病の診療のために、チーム医療に取り組む
第3章 コーチングを取り入れたチーム医療とは
第4章 チーム医療を成功に導く鍵とは
第5章 医師の人材開発
第6章 コミュニケーションは一つの専門技術

※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

第5章 医師の人材開発

千葉大学で教育専任医師となった横尾先生。新しい職場で取り組んでいらっしゃることをお聞きしました。

千葉大の方に戻られて、現在はどんな取り組みをされているのでしょうか。

横尾 私は今、「アテンディングドクター」という教育を専任とするポジションについています。主に、医学生や研修医、レジデントの教育をする立場にあります。もちろん診療や研究にも携わっていますが、教育に全業務の50%以上を充てることになっています。

具体的にはどんなことをされているのですか。

横尾 学生や研修医と一緒に入院患者さんを受け持ち、回診や診察を行います。また、糖尿病の診断や治療方針、インスリンなど薬剤の使い方を教えたり、時には一緒に考えたり、病状説明を行ったりと、日々診療を行っています。もちろん、講義をやることもあります。また、研修医採用の説明会や他大学で開催されている医学教育のセミナーに参加するなど、院外の活動もあります。

なるほど。ドクターを育てていくという観点では、日々どのようなことを意識していらっしゃいますか。

横尾 自分で考える習慣をつけ、問題解決能力を養うようにしています。 また、「相手の強みをさらに伸ばすにはどうしたらよいか」という問いを常に自分に投げかけて日々の指導に携わっています。振り返ってみるとコーチングを学ぶ際に身に付けた経験やスキルがとても役に立っています。自分を振り返ってみても、ある程度経験を積んで自分なりの行動や思考パターンが完成した医師を変えていくことは、時に困難です。なので学生や研修医のうちに物事を主体的に捉えたり、自分の長所や価値観、目標を明確にしたりするような働きかけをしておくと、そこから先の伸びしろも大きいのではないかと思っています。そのため、単に診察の仕方やインスリンの調整法を一方的に教えるだけではなく、日々の指導の中にもコーチングのような対話の時間を入れるようにしています。

ドクター自身の成長や開発について

ドクターにも上司である部長がいて、ステップアップの道があると思うのですが、ドクター自身の成長とか開発といったものは、誰が責任をもち、どのように考えられているのでしょうか。

横尾 クリニック、市中病院、大学病院など医療機関によってばらつきがあり、個人個人に委ねられている部分が大きいように思います。診療や研究においては専門的な知識や技術が要求されることが多いですが、管理職になってくると「どうやって新人をリクルートするか」とか、「関連病院の人事をどうするか」とか、「企業や行政と連携して最適な医療を提供するにはどうするか」といった課題にも取り組まなければなりません。

しかし、我々医師は異業種とネットワークを構築して協働するとか、組織を運営するといった手法をきちんと学ぶ機会に恵まれていません。自分や周囲の人の経験談や事例を頼りにしつつ本を買って読んだり、週末に講習を受けたりして悪戦苦闘する日々です。医療マネジメント学会のような学会に参加すると、そのような悩みを持ち、情報交換を求めている医師が予想以上にたくさんいるということがわかりました。自分自身の能力開発やマネジメントの重要性は認知しているけれども、どのようにやったらよいかわからないという方が多いのではないでしょうか。

専門職ということもあり、上司が部下を開発するという関わりはないということでしょうか。

横尾 ないというわけではありませんが、大学病院やスタッフの出入りが少ない医療機関と職員が頻繁に流動的に入れ替わる医療機関とでは、温度差があることが予想されます。

専門職というのは、知識や技術がものを言う世界だと思いますが、マネジメントとか部下開発といった観点での教育もあったほうがいいとお考えですか。

横尾 必要だと思います。ただ医療関係者は個々のスキルや知識のレベルが高ければ、少し要領の悪いやり方だったり、視野が狭かったりしても、個人の能力でカバーできてしまうこともあります。それで必要性が表面化しない、でも蓋を開けてみると、時間や労力をものすごく無駄にしている場合もあります。「時間がない、忙しい」と言いながら、たくさんの仕事を自ら抱え込んでしまっていたり・・・。なので、マネジメントスキルを系統的に身につけて業務の効率を上げたり自分の能力を最大限発揮したりすることができるようになると、個人や組織のパフォーマンス向上、次世代の人材育成にもつながっていくのではないかと考えています。

また、ドクターの中でも、人材育成を専門にやる人がもう少しいてもいいのではないかと思います。日々の診療や研究は、休まずどんどん進めていかなくてはなりませんが、少し離れた立場から、長期的な視点で医師の業務の質や目標、スキルアップを見直す機会を提供してくれるような人です。そのような観点にもう少し目を向けることができたら、診療だけでなく医師の業務や生活の質も改善し、研究のスピードも加速するのではないでしょうか。医療業界はまだまだエネルギーのロスが多い領域だと思います。

組織的に人の開発について考えられるようになってくると、医療業界全体が変わる可能性があるということですね?

横尾 大いにあると思います。そのためには乗り越えなければならない壁はたくさんありますが・・・。

(次章に続く)

聞き手・撮影: Hello Coaching!編集部

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