プロフェッショナルに聞く

さまざまな分野においてプロフェッショナルとして活躍する方たちに Hello, Coaching! 編集部がインタビューしました。


コミュニケーションで日本の医療現場を変える
千葉大学医学部附属病院 総合医療教育研修センター 横尾英孝 先生

第4章 チーム医療を成功に導く鍵とは

※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

第4章 チーム医療を成功に導く鍵とは
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国内でも急速に増え続ける糖尿病患者。生活習慣病である糖尿病の診療には、チーム医療や患者さんと医療者とのコミュニケーションが重要な要素です。糖尿病診療現場でのチーム医療とは?コーチングを活かしたコミュニケーションの活性化とは?医療従事者の人材育成とは?現在、千葉大学病院総合医療教育研修センターで教育専任医師としても活躍されている、横尾英孝先生にお話をうかがいました。

第1章 「全身を診るために」選んだ糖尿病というフィールド
第2章 糖尿病の診療のために、チーム医療に取り組む
第3章 コーチングを取り入れたチーム医療とは
第4章 チーム医療を成功に導く鍵とは
第5章 医師の人材開発
第6章 コミュニケーションは一つの専門技術

※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

第4章 チーム医療を成功に導く鍵とは

コーチングの取組みに後押しされて成果が出てきたチーム医療。成功させるための鍵はどこにあるのでしょうか。そのポイントを伺いました。

チームの成長に向けて、どのような取り組みをしているか

糖尿病という診療科の中で、チームとして共有したテーマはあったのでしょうか。

横尾 「この地域の糖尿病をよくする」という共通の目的をメンバー全員で共有しました。また、「そのために、私たちには何ができるか」という問いも、共有するようにしました。この問いは、何かあるごとにメンバーの前で口にしていたと思います。

メンバーにコーチングをする際に、「チームとして成長する」という観点で意識されていたことはありますか?

横尾 最初は「私に何ができるのでしょうか」、「糖尿病に興味はあるが、何をしたらいいかがよくわからない」と戸惑っていた方が多かったです。そこで、コーチングの時間を使ってメンバー一人ひとりの得意なことや、興味のあることを引き出していって、それに合った仕事に取り組んでもらうようにしました。そしてその仕事が、地域の糖尿病をよくすることにつながっていくのだということを意識してもらうようにもしました。ゼロからのスタートだったので、最初はある程度こちらからアイディアや指示を出して割り振っていたのですが、段々自分で考えて、自分が望むことをやってもらうようにしていきました。

コーチングを受けた方々はとても喜んでいらしたということですが、関わる上での難しさというのはなかったのでしょうか。

横尾 そうですね。大きい病院なので、部署は比較的縦割りでそれぞれに細かいルールがあったりして、勤務時間中のコーチングがあまり好ましく思われなかったこともありました。なので、個室を用意したり時間外に実施したりといった工夫をしていました。他には、「私もコーチしてほしい」という人がどんどん出てきて自分の業務に支障が出そうになったり、コーチング期間が終了するときに「もっと続けてほしい」と残念がられたりと・・・。嬉しい悲鳴ですね(笑)

チーム医療を機能させるために、一番重要なことはどんなことだと思われますか。

横尾 治療に関わる医療スタッフは、どの職種であっても専門職なので、みんな対等な立場だと思うのです。日本は医師の権限が強く、医師の指示がないと他の職種は自己判断で動いてはならないような制度や風潮がありますが、海外では違います。他の職種の権限がもっと大きくて、各自の判断でインスリンの量を調整したり栄養指導を継続したりしています。各職種の立場が対等である方が、働く人たちのモチベーションも上がるし、患者さんへもいい影響が出ると思います。なのでお互いを尊重し、なるべく対等な立場で接することが一番大事だと思います。

「医療者はみんな対等な立場である」という意識をもったお医者さんは増えているのでしょうか。

横尾 増えてきていると思います。ただ、完全にトップダウンの医局や診療体制でずっと働いていると、それが当たり前だと感じてしまうこともあるでしょう。でも、今は医師の業務が膨大になりすぎていて、医師だけで診療を回すのが困難になってきています。

先ほど、全ての人が対等であることがすごく重要だというお話がありましたが、他にチーム医療を成功させるうえで重要な要素はありますか。

横尾 医師自らが意識を変え動くこと。それから、「継続した取り組み」でしょうか。1ヶ月だけ必死で動いてもその後活動をやめるとすぐに終息してしまいます。また、人事などで人が入れ替わると、その時点で活動が失速してしまう可能性があります。なので、チーム医療の土台作りをしつつそれが継続していく環境を整えることが重要です。その上で、次の世代の人材育成にも力を入れなければなりません。医師に限らず、若手の医療職の育成です。そこにずっと残って、定年まで働いてくれるような人たちを根づかせることも大事ですね。最終的には、専門医がいなくても活発なチーム医療が展開できるような体制を目指していければよいと思います。

チーム医療の継続を実現するためには

チーム医療を継続するために、横尾先生はどのような工夫をされていたのでしょうか。

横尾 2016年に、私は大学病院に戻りましたが、後任の医師にもコーチングを学んでもらうようにしました。また、医師だけでなく、旭中央病院に長く勤務し、若手の育成にも関わるスタッフがコーチングを受けたりチームビルディングについて学んだりする機会を提供するようにしました。同期の大西医師と何度も話し合いを重ねて決めた方策です。とはいえ、マンパワーも時間も予算も限界があるのが現実です。各職種でベテランが退職ないし異動する前に次の世代の要となる人材をきちんと育てて残し、人材を絶やさないようにできればと考えています。現在も旭中央病院に勤務している大西医師がそれを必死にやってくれています。

コーチングのトレーニングを受けている医師がすべての病院にいるわけでもありませんし、実際に忙しい医療現場において、話す時間をとるような環境がないことがほとんどだと思いますが、その場合どうすればチーム医療を実現できると思われますか。

横尾 本来は、医学教育の中でコミュニケーション技術をもっと授業に入れるとか、医師になってからの新人研修などでコーチングを学ぶ、といった機会があると理想的です。現在の日本の医学教育は、どちらかと言うと知識の詰め込みに偏っています。患者さんとの面接の練習としてコーチングスキルを扱うことも学生時代にあるのですが、時間としてはわずかです。また、教える立場である大学病院の教員も忙しすぎて、コミュニケーション力の向上が大事だとわかっていても、そこまで手が回らないという現状があります。きちんと学ぶ機会も時間もまだまだ少ないんですよね。コミュニケーションがうまい、あるいは、コーチングの技術を備えた指導医から習うこともできますが、実際に活発な活動をしている医療チームを参考にするのもよいと思います。

(次章に続く)

聞き手・撮影: Hello Coaching!編集部

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