さまざまな分野においてプロフェッショナルとして活躍する方たちに Hello, Coaching! 編集部がインタビューしました。
千葉大学医学部附属病院 総合医療教育研修センター 横尾英孝 先生
第6章 コミュニケーションは一つの専門技術
2017年07月21日
※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
国内でも急速に増え続ける糖尿病患者。生活習慣病である糖尿病の診療には、チーム医療や患者さんと医療者とのコミュニケーションが重要な要素です。糖尿病診療現場でのチーム医療とは?コーチングを活かしたコミュニケーションの活性化とは?医療従事者の人材育成とは?現在、千葉大学病院総合医療教育研修センターで教育専任医師としても活躍されている、横尾英孝先生にお話をうかがいました。
第1章 | 「全身を診るために」選んだ糖尿病というフィールド |
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第2章 | 糖尿病の診療のために、チーム医療に取り組む |
第3章 | コーチングを取り入れたチーム医療とは |
第4章 | チーム医療を成功に導く鍵とは |
第5章 | 医師の人材開発 |
第6章 | コミュニケーションは一つの専門技術 |
※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
第6章 コミュニケーションは一つの専門技術
旭中央病院、千葉大学医学部附属病院で人材開発に携わってきた横尾先生。今後は、どのようなことを目指していかれるのでしょうか。
チーム医療や人材育成について、他にも取り組まれていることがあればお聞かせください。
横尾 相応に経験を積んだ私と同年代、あるいはそれより上の年代の医師のコーチングにも取り組んでいます。千葉大に赴任した当初は、大学病院の中でベテランの医師の能力開発をするのは難しいだろうと思っていました。しかし、他の診療科にも教育の専任医師が何人かいて意識も高く、「コーチング」という言葉もご存知でした。そのような先生方と交流を深めていくうちに、とある診療科の教育専任医師のコーチを担当することになりました。私がかつてコーチをつけていた時と同じように数多くの発見があったようで、その先生の口コミなどを中心に、「コーチをしてほしい」という医師からの依頼が最近増えてきています。医局の人事や運営、家庭と研究の両立、若手医師の育成で悩みを抱えていてコーチングの必要性を感じている方がいらっしゃったのです。旭中央病院時代にも研修医から中堅医師、部長クラスまでコーチを担当した経験があったので、対医師コーチングという領域も自分の中に確立しつつあります。
他には、私の診療科で実習する学生に対して、週に何回か10~15分程度のコーチングセッションを導入してその効果を検証しています。高い志を持って勉学に励む学生も、よく話を聞いてみると、「患者さんとどうコミュニケーションをとっていいか迷うときがある」とか、「指導医の先生に『勉強しておいて』とか『これを調べておいて』と言われても、効率のよい勉強の仕方や調べ方がわからない」といった悩みを抱えていることがわかりました。そういうところにはコーチングが活かせるのではないかと考えています。調査期間は1ヶ月と短いものでしたが、学生も大変興味を持ち、喜んで協力してくれました。実際、わずか一か月でも、実習中の積極性や会話に変化がみられました。その詳細についてはアンケートを使ってデータをとっていますので、今後日本臨床コーチング研究会や日本医学教育学会で発表する予定です。
また、今年のゴールデンウィークは、米国フィラデルフィアにあるトーマス・ジェファーソン大学の視察に行ってきました。海外では医療関係者の患者さんに対する「エンパシー/共感力」の重要性が科学的に検証されています。トーマス・ジェファーソン大学にはその領域のエキスパートの先生がいらっしゃって、「エンパシー/共感力」が高いと糖尿病患者さんの治療成績がよくなったり合併症が減ったりするということを指標化して論文に発表しています。今回、その先生方と意見交換を行い、「コーチングのときのエンパシー/共感する能力の高さ/低さが、コーチとクライアントにどう影響が出るのか」というテーマで新しい研究を立ち上げようと考えています。もちろん、向こうの先生方はコーチングのこともよくご存知でした。今後、国際共同研究として展開できたらいいなと思っています。
現在は、チーム医療のような取り組みもされてらっしゃるのでしょうか。
横尾 千葉大病院では、2014年7月から糖尿病コンプリケーションセンターという組織が立ち上がり、各専門職が糖尿病の合併症阻止のために活動しています。糖尿病外来には専属のスタッフもいて、チーム医療を意識して患者さんの診療にあたっています。そのレベルを上げていくために、昨年は、すばらしいチーム医療の実績で世界的に有名な論文を出しているデンマークの糖尿病専門施設にチームで視察に行きました。医師以外に栄養士、看護師、理学療法士、検査技師、薬剤師などを含めた多職種チームで、海外の最先端のチーム医療に触れてきました。大学病院はそのような海外研修の機会が豊富です。
先生がこの先に目指すことや、やってみたいと思ってらっしゃることはどんなことでしょうか。
横尾 最終的には、やはり医療関係者の人材開発ですね。コーチングで学んだことやこれまでの経験を活かし、国内外職種を問わず、幅広いスタッフの育成に関わっていけたらと思います。
それは、ここ数年間の取り組みの中から出てきた想いなのでしょうか。
横尾 そうですね。医師の仕事というのは、人間相手の仕事です。特に生活習慣病の診療をやっていて、患者さんやスタッフとどう関わるかという部分がとても大事だということがわかってきました。旭中央病院で壁にぶつかり、コーチングを学んでチーム医療の活性化に取り組んだ経験、そして、その後大学病院で教育専任医師という業務を担当したことが想いを加速させたのかもしれません。
ドクターという仕事は、専門的な知識や技術が必要な専門職ですが、結局は人間相手の仕事の部分が大きいですよね。それなのに対人スキルについて学ぶ機会がないというのは、なぜなのでしょうね。
横尾 人と話すことが苦手でも、手術でピカイチの腕をもっていれば、それはそれで生き残れますからね(笑)。しかし、我々のような手術もカテーテルも内視鏡検査もしない診療科のドクターにとっては、コミュニケーションは特に重要かつ専門的な技術だと思うのです。ただ、目に見えないものですから、判断基準を設けて評価をし、能力を伸ばすためのシステムや教育の体系などを整備する必要があります。「大事だ、大事だ」と訴えるだけでは足りません。日本の医療においても、そういう意識が少しずつ高まってきているようには感じています。
どうもありがとうございました。いろいろお話をうかがわせていただき、勉強になりました。
(了)
聞き手・撮影: Hello Coaching!編集部
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