さまざまな分野においてプロフェッショナルとして活躍する方たちに Hello, Coaching! 編集部がインタビューしました。
ボストン・レッドソックス スカウト 嘉数駿 氏
第1章 『マネー・ボール』との出会いが人生を変えた
2017年06月12日
※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
ハーバード大学を卒業後、野球の世界に飛び込み、現在はボストン・レッドソックスのスカウトとして活躍する嘉数駿(かかず しゅん)氏。野球チームのスカウトとは、いったいどんな仕事なのか? 嘉数さんが野球の世界に飛び込んだ経緯から、今後のビジョンまで、お話をうかがいました。
第1章 | 『マネー・ボール』との出会いが人生を変えた |
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第2章 | 1年半にわたる就職活動 |
第3章 | 野球の世界で働き始める |
第4章 | スカウトの仕事 |
第5章 | 誰でもスカウトになれる? |
第6章 | 優れたスカウトに求められる3つの能力 |
第7章 | スカウトは何で評価されるのか? |
第8章 | 日本のスカウト、アメリカのスカウト |
第9章 | もっと多くの人に野球を楽しんでもらいたい |
※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
第1章 『マネー・ボール』との出会いが人生を変えた
ハーバード大学を卒業後、野球の世界に飛び込み、現在はボストン・レッドソックスのスカウトとして活躍する、嘉数駿(かかず しゅん)さん。プレイヤーとしての野球経験のない嘉数さんは、どういう経緯でスカウトを目指したのでしょうか。
映画製作を目指した大学時代
大学では映画製作を専攻していたとお聞きしました。
嘉数 もともと映画や本や音楽など文化的なことに強い興味があり、いずれはそういう分野で仕事に就きたいと漠然と思っていました。父の仕事の都合で、高校時代に1年間オーストラリアに行ったのですが、その際に、アメリカであれば四年制の総合大学でも映画製作などクリエイティブな仕事に関係する勉強ができると知ったんです。それで、チャレンジしてみようと思い、高校卒業後はアメリカの大学に進みました。
大学卒業後、映画の世界に進むことは考えなかったのでしょうか。
嘉数 映画製作の学科は教養学部の中にあるので、映画製作に関わる教科ばかりを学ぶわけではありませんが、映画理論を学んだり、実際に映画やドキュメンタリーを作ったりしました。それがとても楽しかったこともあり、当然ながら大学卒業後は、映画関係の仕事をするつもりでした。ただ、大学を卒業する際に映画業界の人たちに話を聞いたら、みんながみんな、揃って「やめておけ」と言うんです。「絶対にやめておけ」と言われまして(笑)。アメリカでも、日本でも言われました。
2000年3月麻布高校卒業。同年9月にハーバード大学教養学部に入学。在学中は映画製作を専攻。2004年6月 ハーバード大学教養学部卒業後、2006年に千葉ロッテマリーンズの編成担当として就職。その後、サンフランシスコジャイアンツ日本支部コーディネーター、横浜DeNAベイスターズのGM補佐を経験し、現在は、ボストン・レッドソックスのアジア地区プロフェッショナルスカウトとして活躍中。
『マネー・ボール』を読んで仕事の選択肢が広がる
やめておいたほうがいいという理由はなんだったんですか?
嘉数 映画監督は、会社に入ってステップアップすればなれるというものではなく、なろうと思ったら、すべて自分でやらなければなりません。アルバイトなどをして生活費を稼ぎつつ、映画祭に自ら応募しなくてはならない。それは、すごくたいへんなことだと、みんなが言うんです。逆に言うと「若くなくてもできるから、今すぐ飛び込むというのはやめておけ」みたいな感じのことを言われて、ちょっと怖じ気づいてしまったんですよね(笑)。
それでなぜ野球の世界に?
嘉数 みんなに「やめておいたほうがいい」と言われて、どうしようか考えているときに、数年前に映画にもなった『マネー・ボール』(※1)という本を読みました。内容を簡単に言うと、ニューヨーク・ヤンキースの3分の1程度の予算しかないオークランド・アスレチックスという貧乏球団が、ヤンキースと同じくらい強いチームになった理由に迫ったノンフィクションです。ビジネス判断や統計といった経済的な考え方を活用することで強くなったという話で、それが面白かったんです。当時(2003年)アメリカでベストセラーになっていたし、野球が好きだったこともあって、本当に偶然の出会いだったのですが、この本を読んで、元プロ野球選手でなくても野球界で仕事ができるということを知りました。そして、「こんな選択肢があるんだ」と、目から鱗が落ちるような気がしました。
その本が野球の世界に行こうと思ったきっかけなんですね。
嘉数 はい。その本を読んだ頃、ちょうどボストン・レッドソックスが優勝したんです(2004年)。80数年ぶりの優勝ということもあって、ボストンの街が盛り上がり、街中がレッドソックスの応援をしていました。スポーツチームの応援を超えて文化になっている感じで、それが素敵だなって思ったんです。
ボストン・レッドソックスの優勝も影響しているんですね。
嘉数 さらには、日本のプロ野球で、近鉄バファローズが身売りすることになり、「ライブドアという会社が買収する」、「いや楽天だ」と、いろいろ揉めていた時期でもあったんですよね。選手がストライキをするという話があったり、プロ野球チームが減ってしまうのではないかということも取り沙汰されたりしました。大学を卒業して日本に帰ってきたときのことで、毎日の報道を見ながら、日本のプロ野球の将来はどうなってしまうんだろうと思っていました。僕は野球が大好きだったので、関心をもって見ていたのですが、そういったいろんなことが重なったんです。そこから、ちょっと野球の仕事をしてみたいなって思うようになっていったという感じです。
注1:『マネー・ボール』 マイケル・ルイス著。米メジャーリーグの貧乏球団、オークランド・アスレチックスのゼネラル・マネージャーが、独自の手法で強豪チームを作り上げていく様子を描いた。ノンフィクション書籍。2003年に米国で発売され、ベストセラーに。2011年には、ブラッド・ピット主演で映画化された。
(次章に続く)
聞き手・撮影: Hello Coaching!編集部
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