コーチの薦めるこの1冊

本は、わたしたちに新たな視点を与えてくれます。『 コーチが薦めるこの一冊 』では、コーチが自分の考え方や生き方に影響を与えた本についてご紹介します。個性豊かなコーチたちが、どんな本を読み、どんな視点を手に入れたのか、楽しみながら読んでいただけるとうれしいです。


文化の異なる相手の「理解できない行動」を紐解くヒント(『異文化理解力』)

文化の異なる相手の「理解できない行動」を紐解くヒント(『異文化理解力』)

著者:エリン・メイヤー
出版社:英治出版
発売日:2015/8/22

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数年前、拠点長として香港に赴任して、早々のことでした。

現地の香港人メンバーと、少しでも早く信頼関係を築きたい。 彼らのことをもっと知りたい。

そんな私は、しばらくしてから、彼らを夕飯に誘うことにしました。

「Shall we have a quick dinner today? (今日の夜、飲みに行かない?)」

「・・・Maybe next time(・・・今度ね)」

...今日は都合が悪かったんだな。

そう思い、また数週間後、一緒に外出した夕方に、もう一度誘ってみました。

「Do you have time to drink a cup of tea? (ちょっとお茶していかない?)」

「Ah・・・Maybe next time(・・・今度ね)」

同じようなやりとりが、他のスタッフとも続き、果たして、何かマズイことでもしてしまっただろうか、と眠れぬ夜をすごしました。

文化の違いから生じるコミュニケーションギャップは、この時代のリーダーであれば、多くの人が直面する課題のひとつです。

そしてそのギャップから、文化を異にする相手の行動は、自分には「理解できない」ものとして映ることがあります。

時には、同じ事象や事柄をまったく正反対の解釈をすることによる「誤解」や「対立」をもたらすことさえあるものです。

ご紹介するこの本は、ビジネスシーンにおける異文化理解に特化し、コミュニケーションギャップが生じやすい「8つのマネジメント領域(あるいは、分野)」に沿って国別の特徴を捉え、理解し、対応していくための示唆を与えてくれます。

「8つの領域とその両極端の特徴」

  1. コミュニケーション 「ローコンテクスト vs ハイコンテクスト」
  2. 評価 「直接的なネガティブ・フィードバック vs 間接的なネガティブ・フィードバック」
  3. 説得 「原理優先 vs 応用優先」
  4. リード 「平等主義 vs 階層主義」
  5. 決断 「合意志向 vs トップダウン式」
  6. 信頼 「タスクベース vs 関係ベース」
  7. 見解の相違 「対立型 vs 対立回避型」
  8. スケジューリング 「直線的な時間 vs 柔軟な時間」

例えば、6の「信頼」は、「ビジネスにおいて、人を信頼するのは、何によるものか?」という視点です。

「関係」をベースに信頼する傾向が強い文化圏では、食事などのインフォーマルなコミュニケーションを重ね、あるときは家族ぐるみで、長期的な信頼関係を築いていきます。

一方、「タスク」をベースに信頼関係を築く文化では、いかに生産的にタスクを遂行し、結果を出すか、という業務上のプロセスを通じて、信頼を獲得していきます。


冒頭でご紹介した、私が無意識に選択していた「部下をお酒に誘う」という行動は、平たく言えば、日本流の「飲みニケーション」です。 スタッフから「関係」をベースにした信頼を勝ち取ろうとしたものだったのです。

もうひとつ、4の「リード」の領域では、「あなたにとって良い上司とは何か?」という問いによって見えてくる特徴です。

「階層主義」を重んじる文化圏では、上位者が明確な方針を発信し、何事も上位者の同意や判断を得ることが、組織運営上重要であり、お互いに対する敬意だと捉える傾向があります。

「平等主義」の文化圏では、ポジションの上下に関係なく、皆がフラットな立場で意見を出し合い、役割を全うする傾向があります。時には、ポジションを飛び越えて、課題解決に取り組むこともあります。

この領域における私の「飲みニケーション」を振り返ると、「階層主義」の前提からくる、「上司の誘いは、断らないだろう」という、思い込みの上に立った「誘い」だったのだと思います。

自分でも気づかぬうちに、「日本的な文化」にのっとってことを進めようとし、うまくいかない理由が分からず、心理的ショックが起きてしまっていたのです。

この「気づかぬうちに」という点こそ、文化によるギャップがやっかいなものである所以です。

筆者は、「文化」について、このように表現しています。

「文化」とは水槽の中で泳いでいる魚にとっての「水」のようなもの。つまり、どんな水に泳いでいるのか?水槽の外からは明らかでも、本人は全く自覚できない。

この点で、相手の「理解できない行動」に出会うことは、「自分では捉えにくい文化によるギャップ」を発見できる、数少ない好機と言えるかもしれません。

この8つの視点を持ったときに、私の中には、新たな問いが湧いてきました。

「では、"彼ら流"の信頼関係の築き方とは、どんなものだろう?」

「彼らにとって、"上司"とはどんな存在のものなのだろう?」


しばらくして、香港駐在の長い方が、こう教えてくださいました。

「香港人は、たとえ上司の誘いであっても、当日の誘いだと飲みに行かないことが多いよ。会社の飲み会は業務の一環と捉えるようだし。そもそも、ご飯のときには、お酒を飲まないしね」

世界では、文化的特長が日本と近しいとされる香港ですが、それでも、「私」と「彼ら」の前提には、やはり、ギャップがあったようです。

異文化環境では、お互いの「理解できない行動」が、日常的に連続的に発生していきます。

リーダーの皆さんは、日々の驚きや発見の中で、お互いの真意を理解しようと努め、そして、チームの「新しい形」を模索していることでしょう。

私にとっては、このプロセスこそが、異文化環境で仕事をすることに感じる可能性でもあり、面白さでもあるのです。


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