コーチの薦めるこの1冊

本は、わたしたちに新たな視点を与えてくれます。『 コーチが薦めるこの一冊 』では、コーチが自分の考え方や生き方に影響を与えた本についてご紹介します。個性豊かなコーチたちが、どんな本を読み、どんな視点を手に入れたのか、楽しみながら読んでいただけるとうれしいです。


私は日々成長しているのだろうか?(『なぜ部下とうまくいかないのか』)

私は日々成長しているのだろうか?(『なぜ部下とうまくいかないのか』)

著者:加藤 洋平
出版社:日本能率協会マネジメントセンター
発売日:2016/3/24

『成長』がキーワードの自分

「私は日々成長しているのだろうか?」

初めて転職しようと考えた25歳のとき、この問いが頭に浮かんだ。そして、3年勤めた大手企業のスピード感に物足りなさを感じ、べンチャー企業の営業職を選んだ。転職先選びの軸は「成長が実感できるかどうか」だった。新しい職場では、四半期ごとに雪だるま式に膨らんでいく営業数字をいかに達成していくかが、私の成長指標だった。もがきながら自らの営業目標を達成し、数年後には、マネジャーとして部下の目標達成を支援しながらチームの目標を達成するようになった。だが、マネジャーとして1年くらい経った頃、ふとたちどまった。また同じ問いが頭に浮かんだのだ。

「私は、成長しているのだろうか?」

「ここからは部下の数が増え、マネジメントの領域が広がっていくのだろう」と考えたが、それは自分の成長につながる気がしなかった。自分のキャリアが営業という分野で限定されてしまうように思えた。自分のできることをもっと広げたい、営業だけではなく専門性のある仕事をしたいと考え、コーチの仕事を選んだ。

友人に薦められた本書との出会い

コーチになるまでの自分を振り返ると、経験を増やし、できないことができるようになることを「成長」と定義していたのだと思う。コーチとしてクライアントと対話をしていく中でさまざまな成長テーマを扱うようになり、一言で「成長」といっても、いろいろな考え方、捉え方があることを知った。コーチとしての幅を広げるためにも、成長についてできるだけ多くの視点を得たいと考え始めた頃、部下の育成に悩んで本書を読んだ同僚から「コーチとしても役に立つ」と、この本を薦められたのだった。

本書は、ロバート・キーガン博士が提唱した「成人発達理論」を、対話形式で解説している本である。「学者の提唱した理論」というと難しく感じるかもしれないが、対話形式ということもあって読みやすい。意識の発達段階ごとの特徴と次の発達段階に移行するための必要条件について、わかりやすく書かれている。少々難解になるかもしれないが、キーガン博士の5段階の発達理論をここに紹介する。

【 成人発達理論 】

発達段階1
具体的思考段階
具体的な事物を頭に思い浮かべて思考することはできるが、形のない抽象的な概念を扱うことができない。成人は、基本的にはこの段階を超えている。
発達段階2
道具主義的段階
成人人口の10%に見られる。きわめて自己中心的な認識の枠組みを持っている段階。自分の関心事項や欲求を満たすことに焦点があてられており、他者の感情や思考を理解することが難しい。
発達段階3
他者依存段階
成人人口の約70%に見られる。組織や集団に従属し、他者に依存する形で意思決定をする特徴を持つ。組織や社会の決まりごとを従順に守ることから「慣習的段階」とも呼ばれる。
発達段階4
自己主導段階
成人人口の約20%に見られる。自分なりの価値観や意思決定基準を設けることができ、自律的に行動できる。
発達段階5
自己変容・相互発達段階
成人人口の1%未満が属す。自分の価値観や意見にとらわれることなく、多様な価値観・意見などをくみ取りながら的確に意思決定ができるという特徴を持つ。他者が成長することによって、自らも成長するという認識があり、他者と価値観や意見を共有し合いながらコミュニケーションを図るという特徴も持つ。
(本書より)

このように発達段階が定義されていると、自分がいまどの段階にいるのか、そして、次の段階に進むにはどんな成長をすればいいのかということを具体的にイメージできる。コーチングをする際にも、クライアントをより深く知るための新たな視点をもつことができるようになったように思う。

本書では、2つの成長を定義している。知識やスキルを獲得して今までできなかったことができるようになる「水平的な成長」と、意識の器の拡大、認識の枠組みの変化を意図する「垂直的な成長」だ。この2つの成長の定義を知り、自分の成長に関する視点が水平的成長に偏っていたことに気づく。キーガン博士によると、私たちは意識段階の違いによって世界の見え方が異なり、知識や経験の取り入れ方も違えば、アウトプットも異なるという。そして、「この意識段階の階段を一生涯かけて登っていくことが成長といえる」とも書かれている。

自分は今、どの段階にいるのか?

以前、上司から「人に意見を求めることが多く、自分で決断していないように見える」というフィードバックを受けたことがある。言われた時はあまりピンとこなかった。後から手直しするよりは、事前に人の意見を聞いてから進めるほうが効率的だと考えていたからだ。しかし、成人発達理論の視点から改めて眺めて、自分の価値基準、判断基準をはっきりさせていない、つまり発達段階3の「他者依存段階」から抜け出せていないのではないかと気づいた。そもそも「自分の判断は後から直される」ことが前提で、自分が判断した背景、それを裏付ける理論をもたないままでいることが多かったのである。成人発達理論における「他者依存段階」の次の段階である「自己主導段階」では、「ベストプラクティスを超えて、自らの経験をもとに自分なりの考えや理論を生み出すことができる」とあるが、人の価値観を受け入れたうえで自分はどのように考えるのかを、もっと言語化していく必要があるのだと改めて認識した。

そこからは、自分で決めること、そしてその判断に至った理由を意識して言語化し、さらには思考がぶれないようにノートに記すようにもした。すると、「うまくいってもいかなくても自分の責任」という意識が、今までよりも強く芽生えるようになってきた。と同時に、考えることと決めることは全然違うことだとも気がついた。ちょっとしたことでも決めるのには覚悟が伴う。そして、決めるためには情報も必要だ。仕事においてお客様の成功を考えるとき、そのお客様についてもっと知りたいという想いがより強く湧いてくるようになったのは、この取り組みを始めてからの変化だ。その結果、お客様を訪問する時間やお客様に電話する時間が以前より増えている。決断の理由を言語化するというプロセスは私には今までになかった思考の過程なので、行動を起こすまでに時間がかかるというジレンマもあるが、判断の質を高めるためには必要な道なのではないかと考えている。

この本は、改めて自分の成長に目を向けるきっかけになった。そして、「人の意識は一生涯成長し続ける」ということを知り、成長に向き合い続けることの大切さを知った。発達の最終段階である「自己変革・相互発達段階」では、「他者が成長することによって自分も成長し、他者と価値観や意見を共有し合いながらコミュニケーションを図る」とあるが、私はまだまだ他者と価値観や意見を共有する時間が足りていないと感じる。たくさんの人と対話し、学び合うことでお互いを高めあっていきたい、そんな気持ちが湧き起こる1冊だった。


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