リーダーの哲学

各界で活躍される経営者やリーダーの方々に、ご自身にとっての「リーダーとしての哲学」お話しいただく記事を掲載しています。


経営者インタビュー
株式会社企業評価総合研究所 米澤恭子 代表取締役社長

第24回 より安全・安心なM&Aマーケットを創るために 社員とともに、企業価値評価の進化に挑み続ける

第24回 より安全・安心なM&Aマーケットを創るために 社員とともに、企業価値評価の進化に挑み続ける
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さまざまな業界のトップに、経営に関する哲学をお聞きする経営者インタビューシリーズです。

今回は、M&Aにおける企業価値の算定を行う株式会社企業評価総合研究所の米澤恭子代表取締役社長のインタビューをお届けします。

グループ会社の株式会社日本M&Aセンター内の企業評価チームがスピンアウトしてできた同社は、誰もが安心してM&Aができるよう、中堅・中小企業M&Aマーケットの健全な成長に寄与することを使命としています。

インタビューでは、税理士としての専門的知見や出産・育児の経験も企業経営に生かし、「"世界一の働きやすさ"で"世界一の品質"を目指す」コンセプトを掲げる米澤氏に、社長就任後に抱えた葛藤や目指している姿、社員や組織に期待することなどについてのお話をうかがいました。


米澤 恭子氏 / 株式会社企業評価総合研究所 代表取締役社長 税理士
京都府出身。立命館大学経済学部卒業後、生命保険会社、会計事務所を経て、2005年日本M&Aセンター入社。経理業務のかたわら税理士試験にチャレンジし合格。産休・育休から復帰後は、資格をいかしてコーポレートアドバイザー室の M&Aコンサルタント(専門職)となったのち、株式価値算定を行う新設部署「企業価値研究室」のリーダーとなる。2016年株式会社企業評価総合研究所設立時に取締役就任、2019年 同社 代表取締役社長就任。「 世界一の働きやすさ で 世界一の品質 を目指す」ことを掲げ経営を行っている。
プライベートでは小学生の娘がいる。趣味はゴルフ、釣り、宝塚観劇。
写真提供: 株式会社企業評価総合研究所

"部長のような社長"からの脱却

私は常に覚悟をもって仕事に取り組んでいると思っています。それでも1~2年後に振り返ると、「自分はまだまだ甘かった」といつも思います。

企業評価総合研究所の社長に就任して数年間は、今思えば社長としての本当の自覚が足りていませんでした。当時、私は社長として日本M&Aセンターとは異なる就業規則を制定するなど、独自色を打ち出す経営を行い、会社を牽引していかなければならない気持ちを誰よりも強く持っていたと思います。一方で、スピンアウトする前の部長時代の意識や感覚が私自身に残っていて、「社長は三宅さん(日本M&Aセンターの三宅卓社長)」という気持ちもどこかにありました。

そんな自分が大きく変わる転機となったのが、日本M&Aセンターグループとは全く資本関係のない沖縄の会社と資本提携し、その会社の社長に就任した時です。その会社の社員たちから見ると、社長は他の誰でもない私であり、その影響度や重要度はとても大きいことを実感しました。もともと独立していた企業と資本提携し、両社の社長に就任したことで、私自身も社長としての腹が据わり、本気で「社長たらねば」という意識に変わりました。それにともなって、企業評価総合研究所においても、会社の目指す方向性やビジョンを発信していくようになりました。

今では、毎月、社員向けに当社の使命やビジョンを綴ったレターを配信しています。また、私自身の社員を見る目にも、これまで以上に愛情が増したように思います。

社員のために何ができるのか、社員が成長できる環境はどうあるべきか。会社の成長を考えるだけでなく、社員の成長や幸せを考える。そうした視座に変わってきました。

ワクワクする夢を描き、人の成長と組織の進化を図る

当社の業務の大半は、M&Aにより譲渡を検討している中堅・中小企業の「企業評価」です。決算書から見える財務情報をもとに、時価純資産法やEBITDA倍率法、DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法などの代表的な算定手法に取引事例法を併用して算定を行い、正確で精緻な企業価値算定書を作成します。

この業務にはもちろん専門性が求められますが、さらに物事を進化させる意欲も必要です。取り扱い件数が増え、人員が増えても、この業務を作業的に捉えて漫然と続けるだけでは、企業も人も成長しません。そうなってしまったら、生産性も質も一向に向上しない、むしろ下がっていくことになります。私はやはり、決められたことをやるだけではなくて、自分たちが新しいものを創っていくんだと実感することで、社員も成長し、その結果として組織も成長する姿を志向したい。だから今、よりスピーディに精緻な企業価値算定書を完成させるための業務フローの改善はもちろん、企業価値評価と実際の成約額との差異を小さくするための研究や、決算書からは見えない非財務情報も評価に活かせるような新しい手法について、社員とともに議論しています。みんなで企業評価のあり方の進化に挑戦しようとしているこの時間が今、私には一番楽しいです。

「当社の企業評価が進化し、企業評価総合研究所しかできない企業評価を追求したら、グループ会社である日本M&Aセンターだけではなく、マーケット全体に向けて私たちがやれることってもっとあるかもしれない。M&Aを行うすべての人たちに私たちのサービスを届けよう」。社員がワクワクするような夢を描き、そこから「新しいことに挑戦してみようかな」と思ってもらえたら、私は大満足です。「米澤さんとお話をして、こんなことを思いついちゃいました」と言われたら、きっと、「くぅー!」と痺れますね。

提供: 株式会社企業評価総合研究所

実は半年ほど前からコーチングを受け始めているのですが、そのコーチからの提案で、社員との接し方を意識的に変えてきました。1年前は「あれもやらなきゃね」「できないところを埋めよう」と、タスクの問いばかり投げかけるマネジメントスタイルでした。でも、もし自分が逆の立場だったら、タスクを問われてばかりだと苦しくなります。そこで、積極的に良いところを見つけて、それを言葉にするようにしたのです。

アプローチを変えてからは、社員がより積極的に変化したように感じます。ワクワク感を共有し、ともに先のビジョンを見ることで、社員が自ら「今やらなくてはいけないこと」を考えるようになってきた、そんな手ごたえも感じています。

多様性は、組織のフットワークを軽くする

「私たちの使命を実現したらどうなるのか」「こうありたい」といったビジョンを日常的に本気で追いかけていると、なんだかパワーが湧いてくるんですよね。

「公正な企業価値の算定・提示を通じて、M&Aマーケットの健全な成長に寄与する」という当社の使命を心底本気で実現しようと日本中を駆け巡っているからか、私は頻繁に人から「本当に元気ですよね」と言われます。今まさにこの使命が実現に近づいている手ごたえを感じているから、なおさらパワーが湧いてくるんですよね。

一方で、もっと使命の実現に近づくために当社に必要なのが、譲渡企業だけでなく譲受企業などの外部との接点や多様な視点です。アイディアや発想は、それぞれの経験を持ち寄ることで生まれますから、似たようなバックグラウンドの人たちだけによる発想だと偏ってしまう。

"世界一の働きやすさ"を標榜する当社は、今、社員の9割が女性社員です。それを「企業評価が好き」という共通点を軸にして、ジェンダーや世代、キャリアや経験などのD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を推進し、それぞれが得意分野を発揮できるようにしていきたいと考えています。それが実現できれば、今、当社ができていない外部とのネットワークづくりや情報発信などについても率先して手を挙げる人が出てきたりして、フットワークが軽くなっていく。そうした好影響が出るのではないかと考えています。

使命の実現に道筋をつけたとき、社員には"登り癖"がついているはず

私という人間を構成している大きな経験は、これまでに三つあります。一つ目の税理士試験を突破した体験です。そのことは自分の自信にもつながりましたし、そこで得た知識はまさに今の商売道具です。

二つ目は、出産して子どもを育てた経験です。これはプライベートのできごとですが、私の人生の中ではとても大きな経験です。

三つ目は、当社の経営という仕事です。この経験の中で、男女問わず"世界一の働きやすさ"を目指すときに、二つ目の育児の経験を存分に活かすことができていると思います。

私は、『「やるか、やらないか」と問われたらまず「やる」と答えよ。やり方は、そのあと考えればよい。』という考え方がとても好きです。今の私があるのも、三宅さんが「やってみな」とチャンスをくれ、「やる」と答えた私に多くの方が協力してくださったからなんですね。

M&Aにかかわる仕事をしていることもあって、最近、ふと私が社長を辞めるタイミングについて考えました。

当社の使命の実現、すなわち、私たちの企業評価を通じて、これまで何十年もかけて大切に会社経営されてきた中堅・中小企業のオーナーの方々が、安全で安心なM&Aを行える社会の道筋が見えた時が、次の世代にバトンを渡す時機だと思います。

今は登山でいえばまだ2,3合目ですが、ひとたび軌道に乗ったら早いかもしれません。その時は、社員の皆が、「大変だったけどすごいところまできた。ここまで来られたのだから、もっとできるはず」と考えられるような"登り癖"がついているに違いないと信じています。

本記事は2022年6月の取材に基づき作成しています。
内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
表紙写真: 株式会社企業評価総合研究所


株式会社企業評価総合研究所

2016年、日本M&Aセンターの企業価値評価部門をスピンアウトする形で会社設立。「誰もが安心してM&Aができるように中堅・中小企業M&Aマーケットの健全な成長に寄与する」ことをミッションステートメントに掲げ、中堅・中小企業 M&Aにおける企業評価(株式価値算定 / 事業分析)事例に基づく中小企業M&A取引事例法の確立と指標提言を行う。2018年に取引事例法による株価算定を開始。2020年、株式会社スピアを子会社化。同年に企業評価システム「V COMPASS」リリース。現在は東京、大阪、福岡、沖縄に拠点を持つ。


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